全5870文字

 米Apple(アップル)は敵か味方か――。ユーザーを奪い合う格好になる自動車メーカーにとっては脅威だが、サプライヤーから見ると部品の供給先を増やせる絶好のチャンスだ。ただし、受注の取り方は変わる。「アップルカー」に代表される次世代車両が求める価値を提供できるか。新しい流儀での取り組みが始まった。

日経産業新聞と日経クロステックの共同連載企画の第2弾です。百家争鳴のAppleカーの行方を展望しつつ、新たなテクノロジーを深掘りし、勃興するモビリティー産業の最前線に迫ります。

 「独Daimler(ダイムラー)とレベニューシェア(収益分配)の契約を結んだ。この契約が自動車業界に変革をもたらす」。米NVIDIA(エヌビディア)で自動車部門を率いるSenior DirectorのDanny Shapiro(ダニー・シャピーロ)氏は、従来の部品メーカーの枠を超えた取り組みを始めたことを明かす。

 DaimlerとNVIDIAは2020年6月、自動運転用の車載コンピューターやソフトウエア基盤の領域で協業すると発表した。無線通信でソフトを更新するOTA(Over The Air)によって自動運転などの機能を常に最新の状態にするプラットフォームの構築を目指すとしており、今回両社が交わした契約内容の一部が分かった(図1)。

図1 DaimlerとNVIDIAが共同でプラットフォーム開発
図1 DaimlerとNVIDIAが共同でプラットフォーム開発
NVIDIAは車載半導体から開発環境、クラウド基盤までを幅広く提供する。その見返りとして、自動運転ソフトなどOTAサービスで獲得できた収益の一部を得る契約とした。(出所:Daimler)
[画像のクリックで拡大表示]

 クルマの利用者が自動運転ソフトなどを購入・更新した際に得られる収益を、両社で分け合うことを決めたのだ。Shapiro氏は「他の自動車メーカーとも同様の合意がなされるだろう」と自信をのぞかせる。

 半導体メーカーのNVIDIAがクルマの販売後にも収益を得るという革新的な契約を勝ち取ったのは、自動車業界の変化の象徴だ。ハードウエアを売って終わりというサプライヤーの常識が、大きく覆ろうとしている。

下請けかパートナーかの分岐点に

 Appleを筆頭に、ソニーや中国のIT大手など様々な企業が自動車業界の「外」から新規参入をもくろむ。迎え撃つ既存の自動車メーカーも必死に、どこで個性を発揮できるか日々頭を悩ませる。

 新規参入組の次世代車両は、OTAのソフト更新で機能を次々に追加していく電気自動車(EV)になると予測する声が多い。スマートフォンのアプリを追加していく使い方に近いことから「スマホカー」、あるいは「車輪が付いたデータセンター」(NVIDIAのShapiro氏)などと表現される。

 クルマの価値や構成する主要技術が変われば、部品を供給するサプライヤーの勢力図も変わる(図2)。アップルカーの登場が控える今は、新たな顧客を獲得するまたとないチャンスなのだ。

図2 次世代車両を構成する3つの主要部品
図2 次世代車両を構成する3つの主要部品
EVプラットフォームと高性能コンピューターはコモディティー化が進行する。自動車メーカーは、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の領域で差異化を図る。(撮影:日経Automotive)
[画像のクリックで拡大表示]

 独Roland Berger(ローランド・ベルガー)の日本法人前社長で、現在は様々な新規事業を手がけるきづきアーキテクト代表取締役の長島聡氏は「自動車メーカーの下請けのままかパートナーになれるか、今が分岐点」と読む。重要なのは部品メーカーの姿勢で、「『当社ならこんなアップルカーを実現できる』と前のめりにアピールして相手に面白いと思わせてしまえばパートナーの道が開ける」(同氏)と背中を押す。

 では、部品メーカー各社はどのようにしてアップルカーをはじめとする次世代車両への部品供給を勝ち取ろうとしているのか。水平分業が進み「ケイレツ」の威力を発揮できない状況では、自動車メーカーとの「すり合わせ」で受注を獲得してきた従来のやり方は通用しない。

 アップルカー時代の新しい受注の流儀として、3つのやり方が浮かび上がってきた。