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 米Apple(アップル)はSDGs(持続可能な開発目標)を重視する経営姿勢で知られる。次世代のモビリティービジネスを研究している伊藤忠総研上席主任研究員の深尾三四郎氏は、仮にAppleが自動車産業に参入した場合、SDGsを重視したサプライチェーンの構築に動くとみる。(聞き手は星 正道=日本経済新聞社企業報道部)

深尾三四郎氏
深尾三四郎氏
(本人提供)
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アップルカーが登場したら、どんなインパクトがあると思いますか。

 Appleがスマートフォンで世界を席巻した水平分業モデルの成功体験を自動車に持ち込むだろう。スマホやパソコンのように開発・設計と、生産を分けていく。すでに台湾・鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)が電気自動車(EV)のプラットフォーム開発を表明し、2021年3月下旬時点で1200社を超えるサプライヤーが参画に名乗りを上げている。

 ソニーはすでに自動運転EVの公道走行実験を始めているが、生産は車体受託メーカーのオーストリアMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)に任せている。電動化に出遅れた自動車メーカーは買収されるか、工場をApple向けの受託生産に振り向ける可能性はある。

水平分業が進むと、自動車のサプライチェーンはどんな影響を受けますか。

 スマホやパソコンで起きたことが自動車でも再現されるかもしれない。スマホでは、村田製作所やTDK、太陽誘電など一芸に秀でたサプライヤーが勝ち残った。自動車でも今、電池や半導体メーカーが自動車メーカーに対して力を付けてきている。

 注目は脱炭素やSDGsにからめた動きだ。Appleはサーキュラー・エコノミー(循環型経済)の重視を表明している。これから、サプライヤーのトレーサビリティー(追跡可能性)が重要になる。デジタル情報の信頼性を担保するブロックチェーンの技術が求められるが、最近Appleはブロックチェーン技術の専門家の採用に力を入れている。

ブロックチェーンはサプライチェーンで必要になりますか。

 サーキュラー・エコノミーを実現するには、サプライチェーンでトレーサビリティーが求められる。これは欧州発の世界的な動きとなりつつある。倫理的調達とも言われ、脱炭素の側面でも語られる。例えば、部材をリユースできる体制を整え、循環型経済を構築する。

 車載電池でも正極材のコバルト(Co)について、倫理的調達を実現しているか否かのデータの信頼性を担保するため、ブロックチェーンの技術を活用する流れにある。Appleがブロックチェーンを実際に活用するかは分からないが、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた中核技術になるとみている。