米Apple(アップル)の自動車市場への参入で、部品メーカー間の競争激化が予想されている。ライバルがひしめく中で好機を呼び込むにはどうしたらいいか。自動車業界に精通するきづきアーキテクト代表取締役の長島聡氏は、「重要なのは姿勢」と説く。同氏は独Roland Berger(ローランド・ベルガー)日本法人前社長で、現在は様々な新規事業を手がけている。(聞き手は久米 秀尚=日経クロステック/日経Automotive)
いよいよAppleが自動車市場に参入してきそうです。
世の中の報道だと、自動運転車になるのではという話がある。でも、Appleが自動運転車を造るだけだとちょっと面白くない。それに、自動運転車は販売できる地域が限られる。法律で走れない場所がある現状で、マスに広告して「誰でも買っていいですよ」と言いにくい商品をAppleが本当に出してくるのか。
独自性という点では、米Tesla(テスラ)は(無線通信で機能を更新する)「OTA(Over The Air)」でクルマの価値を変えた。走行モードを増やしたり子供の車内置き去り防止機能を追加したりと、OTAをどんどん活用する。誕生日にドアがパタパタと動いて運転者を祝ってくれるサプライズ機能もあるくらいだ。思わず笑ってしまうようなものもあるが、新しい体験をどんどん追加していく姿勢にTeslaの覚悟を感じる。Appleも、そういった突き抜ける覚悟満載で自動車市場に参入してくるのだろう。
では、Appleはどのような独自性を打ち出してきそうですか。
個人的には、Appleが仕掛ける新しいことは人の五感に訴える領域だと予想している。ヒントは、ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」にあると思う。このイヤホンで注目したいのは、音のモードを切り替えられるところ。周囲の音を遮断するノイズキャンセリングだけでなく、逆に外部の音を取り込むモードも用意した。
似たようなことをクルマでも実現するのではないか。これでクルマに関するコミュニケーション、ひいては車内空間の定義が変わってくる。クルマが乗客と外の人のコミュニケーションを自在に操る。移動中、自分の独自の世界に浸りたいなら外界から遮断する。外の雰囲気を感じたい人は音を取り込めばいい。音のAR(拡張現実)というイメージで、自在に環境をコントロールすることで移動してないかのような演出がされるだろう。
車内空間の快適性を高める取り組みはこれまでにもありましたが、Appleは一歩も二歩も踏み込むということですね。
大事なのは、乗員の気分に応じて選択できるという点。音を遮断したい人か取り込みたい人のどちらかに寄せるのではなく、みんなが気持ちよくなれるクルマができたら面白い。
乗員が選択する以外に、クルマが自動的に感じ取って演出してくれるのもありそうだ。自動運転に怖さを感じている人には、動き出したら外の様子を安心できるように伝えるなど、いろいろと考えられる。一例として聴覚の話をしたが、クルマに関するコミュニケーションの領域で、五感全体にAppleは何か訴えかけてくるのだと期待している。