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 自動車業界は百年に一度の変革期といわれている。IT企業の電気自動車(EV)への新規参入が相次ぐ中、自動車産業や交通システムにどのような影響を与えるのか。交通制御工学が専門で、東京大学の生産技術研究所次世代モビリティ研究センター長を務める大口敬教授に話を聞いた。(聞き手は岡田 江美=日本経済新聞社)

大口敬氏
大口敬氏
(写真:日本経済新聞社)
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IT企業の新規参入は自動車産業にどのような影響を与えますか。

 「GAFA」と呼ばれる米巨大IT企業のビジネスモデルの強みは、圧倒的にバーチャルの世界だから発揮できた。強者が全部取るという仕組みもバーチャルだからこそ可能になった。

 自動車産業は日本で見ても乗用車メーカーは8社ある。なぜ8社もあるのかというと、物理的な世界でのものづくりには職人芸に近いノウハウがあり、完全にマニュアル化したり、標準化した知識にしたりして、誰でもできるというものではないからだ。

コネクテッド技術やITに強い新興メーカーの参入は、交通システムにどのような影響を与えますか。

 例えば、自動運転が進めば、事故が発生する確率を下げられるかもしれない。コネクテッド技術の発展で、交通状況を瞬時に理解し、渋滞が起きていたら、そこを避けた経路に変更することで、渋滞を早期に解消させることも期待できる。自動運転になっても渋滞を完全に解消できるとは思わないが、なるべく混雑を最小限にするような管理ができるようになる。

 ただ、コネクテッドや人工知能(AI)の技術を最大限活用しつつも、それらにすべて管理され、人間は何もしないというのは望ましくない。車での移動は個人の自由な行動の延長としての象徴だ。完全にシステムで管理されて、その上を車や人が動くのではなく、データを活用し、今以上に自由にのびのびと動ける仕組みを整えるのがいいのではないか。

ものづくりのノウハウなど既存の自動車産業の強みは今後も競争力となりますか。

 車は振動などの過酷な環境下で、丁寧に扱う人もいれば、足として使う人もいる中、一定の機能を果たす製品として売られてきた。ものづくりの質の維持やノウハウは重要だ。そこへの信頼感はバーチャルな世界での、例えばスマホのキャリアを簡単に乗り換えるという世界とは違う。人間のものに対する執着というのは侮れないだろう。

 一方、そういう意味で見たとしても米Apple(アップル)は脅威になり得る。Appleがものづくりをやっている会社で、システムだけを作っているわけではないからだ。ただ、携帯機器やパソコンよりも車が使われる環境は厳しく、Appleがすべて自前で製造まで手掛けるのは難しい。そこを克服するために、これまでの自動車分野が持っているノウハウと、IT勢が持ってくる新しいビジネスモデルを合体する活動が今後進むだろう。