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顧客のデータをより幅広く

 既存の損害保険事業を進化させる上で、カギを握るのがデジタル技術だ。2021年4月からの新たな中期経営計画には中長期の修正純利益目標を5000億円超と、2021年3月期予想値よりおよそ1700億円積み増す。同目標を支える経営基盤の一つにデジタル戦略を据える。目指すのは「デジタルと人のベストミックス」(東京海上日動火災保険の広瀬伸一社長)だ。

 既存の損保の殻を破る事前の予測や顧客支援に向けて、まずはデータを精緻に集めて既存事業の品質や効率を高める。自動車の車載機器で測る走行データ、人工衛星による地表や気象のデータ、ウエアラブル機器で測った契約者の睡眠や歩行のデータ。「これまで手薄だった顧客を取り巻くリアルタイムのデータ」(前川アシスタントマネージャー)を集める。事故や災害に関する東京海上グループが豊富に持つデータと組み合わせ、「より高度な保険の引き受けを目指す」(同)。将来的には構築したリアルタイムデータ収集基盤を軸に、安全運転を促し事故の未然防止につなげるサービスも視野に入れる。

 社内の業務プロセスも変革の対象だ。AI(人工知能)を活用したコールセンターの照会応答の効率化や、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使った事務手続きの自動化、全ての業務を在宅で実施できる新型コロナ禍対応の勤務体制の整備。デジタル技術を活用し、2026年度をめどに社内事務を2019年度比で2~3割減らす。

 「保険事業はどこまでいっても人が担うピープルビジネス。機械化、自動化できるところは徹底的にデジタル化し、人にしかできない業務へよりフォーカスして付加価値を高める」。東京海上日動の広瀬社長が語る方針は、グループ全体のデジタル戦略を貫く。

既存事業の停滞打破へ

 東京海上グループがデジタル戦略に力を注ぐのは本業の収益力向上と同時に、次の成長の柱を確立するためだ。背景には既存事業の伸び悩みがある。

 東京海上HDの2019年度(2020年3月期)の業績は売上高に相当する収入保険料が3兆5983億円と前期比0.3%増。この数年は横ばいの傾向が続く。

 足元では2020年4~12月期の連結純利益は1127億円と前年同期比で半減した。自然災害の激甚化で保険金支払いの積立金を増やしたほか、新型コロナ禍で海外を中心に保険金の支払い増が重荷になった。

東京海上ホールディングスの業績(収入保険料)
東京海上ホールディングスの業績(収入保険料)
(出所:東京海上ホールディングスの資料を基に日経コンピュータ作成)
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 中長期的にも国内の人口減少で、従来通りの事業戦略はおぼつかない。停滞を打破し成長するため、デジタル戦略を次世代の経営基盤に据える。

「システムリスクは経営リスク」

 東京海上グループは日本企業の中でも最も早い時期からコンピューターを活用してきた企業グループの1つだ。1961年には同社として初めての事務コンピューターを導入した。

 同時期にはコンピューターを業務に生かす9つの原則を経営層が定めた。コンピューターの存在自体が珍しかった当時、「コンピューターを使って経営を変えるという認識を、経営陣が最初から持っていた」(東京海上日動の堅田英次IT企画部次長)。

 1975年には自動車保険のオンラインシステム、1991年に販売代理店向けのオンラインシステムをそれぞれ導入。事務作業の電算化を進めてきた。

 2000年には「アプリケーションオーナー制度」を導入した。開発する情報システムに発注元である業務部門が責任を持ち、要件定義から受け入れテストの実施、検収まで手掛けるのはもちろん、受け入れテスト自体も業務部門が作るよう義務付けた。

 狙いは情報システムに起因する業務トラブルの撲滅だ。1991年の代理店オンラインが普及するとともに、1990年代末の金融ビッグバンによる保険販売の自由化で商品が増加。情報システムや事務も複雑になり、業務が滞ったり事務作業をミスしたりといったトラブルが急増したという。

 「システムリスクは経営リスクだ。システムが止まればビジネスが止まる」。当時の経営層が号令し、同制度の創設につながったという。