全2823文字
PR

 政府の圧力によって料金引き下げを余儀なくされたNTTドコモとKDDI、ソフトバンクの通信大手3社が大きく変わりつつある。収益の大半を占めていた通信事業が縮小する中、金融・決済などの非通信、そして法人分野の事業を半分近くにまで拡大しようとしているからだ。脱・通信依存に向けた新たな競争が始まっている。

内外価格差調査で東京はロンドンに次いで低額に

 総務省は2021年5月25日、東京など世界6都市の21年3月時点の携帯電話料金の内外価格差調査を公表した。データ容量が月20ギガバイトのプランでは、東京はロンドン(英国)に次いで低額だった。これまでは東京が最も高額だった。NTTドコモが21年3月に開始したオンライン専用プラン「ahamo(アハモ)」など、割安なプランが登場したことで、日本の携帯電話料金が劇的に下がったことになる。

 割安なプランは消費者にも受け入れられている。NTTドコモのahamoは、21年4月末に契約件数100万件を突破。KDDIのオンライン専用プラン「povo(ポヴォ)」も21年5月中旬時点で「100万契約が見えてきた段階」(KDDI社長の髙橋誠氏)と、好調に推移している。

 だがNTTドコモとKDDI、ソフトバンクにとっては、割安なプランへ既存契約者が移行すると、収益の柱である通信事業が打撃を受ける。21年5月に開催された通信大手3社の通期決算会見では、およそその額が年600~700億円規模になることが見えてきた。

 KDDI社長の髙橋誠氏は、「値下げの影響はおよそ年間600~700億円減」とした。開示されているグループID数(auとUQモバイル、povo、KDDIグループのMVNOの契約数)と、マルチブランド通信ARPU(auとUQモバイル、povoのARPU)を見てみると、20年度末のグループID数が3151万1000のところ、21年度末は3180万に増加すると見込む。一方のマルチブランド通信ARPUについては、20年度末が4400円だったのが21年度末には4200円に低下すると予想する。掛け算をすると、マイナス約611億円となり、髙橋社長が示す水準と一致する。

 ソフトバンク社長兼CEO(最高経営責任者)の宮川潤一氏も、同社のオンライン専用プラン「LINEMO(ラインモ)」などを含めた一連の料金引き下げの影響について、「年間700億円減ほどのインパクトがある」と打ち明けた。

 NTTドコモ社長の井伊基之氏は値下げの影響を明らかにしていなかったものの、同社が決算で開示した22年3月期のモバイル通信サービス収入予想を見ると、前年実績から622億円のマイナスとなっている。これは他社からの顧客獲得を含めたトータルの収入額であるため、一連の値下げの影響は少なくとも600億円以上という計算になる。

非通信+法人の比率を3~4割に

 逆風下にあるNTTドコモとKDDI、ソフトバンクの通信大手3社だが、決算会見で開示した22年3月期(21年4月1日~22年3月31日)の業績予想はいずれも増収増益とした。

 値下げのインパクトを受ける一般消費者向けビジネスは、ほぼ横ばいか減益を見込む。その一方で近年、成長分野として位置づける金融・決済などの非通信と法人ビジネスの伸びがカバーすることで、成長を維持する計画としている。

KDDIの22年3月期の業績予想
[画像のクリックで拡大表示]
KDDIの22年3月期の業績予想
(作成:日経クロステック)

 例えばKDDIは、成長分野として位置づける金融・決済やエネルギーなどのライフデザイン領域(非通信)において、22年3月期の売上高は前年比14.9%増、営業利益に至っては同26.3%増と二桁成長を見込む。同じく成長分野のビジネスセグメント(法人事業)についても、営業利益は同10.4%増を目指す。

 その結果、KDDIの22年3月期の業績予想における成長分野(非通信+法人)が占める割合は、売上高で約47%(セグメント取引を除いた単純計算)、営業利益で約41%と、半分近くまで高まる見込みだ。

 ソフトバンクも成長をけん引役とするのは法人と非通信だ。同社は今期からセグメント別の営業利益予想の開示を始めた。セグメント別業績予想を見ると、成長ドライバーとなるのは法人事業だ。22年3月期の同事業は前年比19%増と二桁成長を見込む。同社の法人事業は21年3月期も前年比29%増と大幅増益だった。

ソフトバンクの22年3月期の営業利益予想
[画像のクリックで拡大表示]
ソフトバンクの22年3月期の営業利益予想
(作成:日経クロステック)

 同社社長の宮川氏は「大企業の95%と取引をしており、回線売りからトータルソリューションを提案できるようになった。伸び盛りであり(20年度に1077億円だった)法人の営業利益を、22年度には1500億円まで伸ばしたい。これは軽くクリアできるだろう」と力を込めた。

 ソフトバンクはLINEを含むZホールディングス(旧ヤフー)を子会社化し、一気に非通信分野も強化している。これらの結果、22年3月期の営業利益予想に占めるこうした成長分野の割合は34%まで高まる見込みだ。