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テレワークが普及する中で浮き彫りになったコミュニケーション不足という課題の解決策として「1on1ミーティング」に注目が集まっている。上司が部下のコンディションを把握したり、部下の悩み事を解決したりしていくのに有効だ。今回は基本編の第1回として、1on1に注目が集まる背景や先進企業の動向、1on1の実施回数や頻度などの概要を紹介しよう。

本特集の紹介内容。今回は第1回の「背景・動向・概要」を取り上げる
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 2020年春以降、新型コロナウイルスの感染防止策として多くの企業が在宅勤務をはじめとするテレワークに取り組むようになった。テレワークを始めてから、「個人作業がはかどる」「通勤時間がなくなったことで心身の負担が減った」といったメリットを得ているビジネスパーソンは少なくない。

 一方で、出社勤務時に比べて同じ部署やチーム内の対話機会が減るなど、コミュニケーション不足という課題も浮かび上がっている。テレワークに取り組む企業の動向に詳しいリクルートマネジメントソリューションズ(RMS)HRDサービス開発部パーソナルディベロップメントグループの星野翔次氏は「様々な企業の管理職や人事担当者へヒアリングすると、テレワークをしている部署の上司と部下はともに疲弊している」と明かす。

対話不足が部下の心身にも影響

 具体的には、テレワークの普及によって、上司は部下の仕事の進捗やモチベーション、コンディションなどが捉えづらくなっている。部下も孤独に業務を進めざるを得ず、ランチに出かけて雑談するといった機会も減って、他のメンバーや上司との一体感が得にくくなっている。

 こうした状況を放置していると危険だ。仕事上の人間関係などの問題を1人で抱え込みがちになったり、会社とのつながりや部署としての一体感が得られなかったりしたりして、若手の部下を中心に突然退職する事態を招きかねない。「上司が部下の仕事の状況を把握できないことから、テレワーク中の部下が働き過ぎになるなどして、仕事とプライベートのメリハリがなくなって体調不良に陥るケースも発生している」とRMSの星野氏は指摘する。

 こうした中、テレワークに取り組む企業で注目が集まっているのが、上司と部下の個人面談「1on1ミーティング(1on1)」だ。上司と部下が定期的に1対1で行う対話型のマネジメント手法とも言える。上司が部下のコンディションなどを把握したり、部下の寂しさや疎外感を軽減したりする効果が見込める。Web会議サービスなどによるオンラインで行うことが多い。

経験学習の場にして部下の成長を支援

 1on1の効果はそれだけではない。1on1の場をうまく活用することで、「セルフマネジメント力が身に付くなど部下を自律した人材に育てることもできる。こうしたことからテレワークに取り組む企業から1on1に関する問い合わせが増えている」とRMSの星野氏は説明する。

テレワークの普及を進める企業で生じた必要性とそれを踏まえた企業の動き
テレワークの普及を進める企業で生じた必要性とそれを踏まえた企業の動き
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 1on1が自律的な部下育成のカギだとみられる背景には、大人が学ぶ物事全体のうち、7割は自らの経験から学ぶ「経験学習」によるという教育理論がある。「この経験学習を部下が1on1の中で行えるように上司が支援していけば、部下は経験から学んで成長していける」(RMSの星野氏)。

先駆的企業ヤフー、経験学習の促進を狙う

 経験学習の場としての1on1に着目して導入した先駆的企業がヤフーだ。同社は2012年から現在に至るまで1on1に取り組んでいる。当時のヤフーはパソコン向け検索サービスなどを主に提供していたが、スマートフォンやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの新サービスが普及して経営環境が厳しくなっていた。

 2012年、ヤフーは経営改革に乗り出す。成長のために企業買収などの手段もあったが、着目したのが当時4000人ほどいた社員の潜在能力だった。「社員1人ひとりが持てる力を発揮できるように成長すれば、企業としても成長できると考えて、人財開発企業を目指すことにした」とヤフー ビジネスパートナーPD本部の池田潤氏は話す。

 社員の成長を促す手段には研修などがあるが、ヤフーは経験学習を採用した。「大人が成長していく糧として最も大きいのが経験。そこで、1on1を行う中で、社員が経験した仕事を棚卸しした上で、何が理由でうまくいったのか、どんな工夫が功を奏したのかなどを、上司が問いかけることで大きな学びを得るようにした」(池田氏)。1on1を軸に人材開発を進めたことなどが奏功して、ヤフーはそれ以降、EC(電子商取引)事業で新戦略を打ち出すなど企業として大きな発展を遂げている。