テレワークが普及する中で出てきたコミュニケーション不足という課題の解決策として「1on1ミーティング」に注目が集まっている。しかし実際に取り組んでみると「雑談だけで終わってしまう」「話すテーマがなくなってきた」などの課題に直面することが多い。そこで今回から2回にわたって実践編として、1on1を続けている先進企業の上司のテクニックを基にこうした課題の解決策を紹介しよう。
前回まで基本編として、1on1ミーティング(1on1)を進める上で上司にとって大切なスタンスやスキルなどを紹介した。今回を含めた2回は実践編だ。1on1に取り組んでいる先進企業の上司への取材を基に、上司として1on1に具体的にどう取り組んでいけばよいかを明らかにしていく。
取材の結果、上司として注意すべき1on1の場面には「はじめ」「テーマ設定」「部下への質問」の3つがあることが見えてきた。今回は「はじめ」「テーマ設定」の2つについて詳しく紹介する。
テレワーク環境下では上司側のカメラ位置をチェック
1on1の「はじめ」では、部下が話しやすい状況をつくることが大切だ。特にテレワークが普及した職場ではWeb会議サービスなどを使って1on1を行うことになる。この場合、利用するデジタルツールに工夫を凝らすことで、効果的に1on1を進められる。
テレワーク環境下、Web会議サービスを使って部下であるメンバーとの1on1を実施している損害保険ジャパンの中野英男企業営業第4部第3課課長は話しやすい雰囲気づくりに心を配っている。
中野課長が気を付けていることの1つが、カメラの位置だ。スマートフォンに内蔵されているカメラを使っているので、スマートフォンをデスク上の三脚に設置して目の高さの位置にしている。一般に、デスクの低い位置からカメラで顔を映すと、Web会議をしている相手に届く映像は、相手を見下ろす感じに見えて威圧感を与えてしまうことが多い。中野課長は三脚を使うことで、こうした威圧感をなくしているわけだ。他に、照明が間接的に顔に当たるような工夫も凝らしている。
さらにリラックスできる雰囲気をつくるため、「メンバーにもコーヒーやお菓子などを手元に用意してから参加してもらうことで、1on1が良い時間になるようにしている」と話す。Web会議の1on1では部下の観察がより大切に
Web会議サービスを使った1on1で、映像を重視する先進企業の上司は多い。日立製作所の扇野竜人財統括本部人事勤労本部トータルリワード部処遇企画グループ部長代理は、できる限り互いの顔を映しながら部下との1on1を進めている。「部下の反応を確認したり、表情を踏まえて伝え方を変えたりするのに役立つ」と説明する。
2020年春以降、全社的にテレワークを進めているヤフーも、Web会議サービスを使って1on1を進めている。ヤフー ビジネスパートナーPD本部で1on1をはじめとする人事施策を推進している池田潤氏は「テレワークに移行してからは、上司がメンバーをより一層注意深く観察することが大切になっている」と指摘する。
2012年から1on1に取り組んできたヤフーではこれまでも1on1では「膝を交えて話し合う」といったことを意識して実施するよう上司に呼び掛けてきた。テレワーク環境下で1on1を実施するようになってからは、部下が発している言葉の内容だけではなく声のトーンや表情、身ぶりなどをよく観察するよう上司に意識してもらっている。
「Web会議になると対面に比べてメンバーの状況把握に役立つ情報量は減ってしまう。そのため上司はテレワーク環境下の1on1でメンバーの反応を敏感に気づけるように、観察がより重要になっている」と池田氏はその理由を説明する。
ヤフーではこの他、部下に威圧感を与えないように、上司が自身を映すカメラの角度を見直すことや、部下の言葉を受けてうなずいたり、笑ったりするリアクションを大きくすることなどを、テレワーク環境下の1on1で上司に呼び掛けているという。