テレワークが普及する中で出てきたコミュニケーション不足という課題の解決策として「1on1ミーティング」に注目が集まっている。1on1は、部下のコンディション把握や部下と上司の関係性構築に加えて、部下の自律も促進できる。そこで今回は実践編の2回目として、部下の自律を促すために、上司が部下へ投げかける質問に関するノウハウを紹介しよう。
1on1ミーティング(1on1)に取り組んでいる先進企業の上司に取材したところ、上司として注意すべき1on1の場面には「はじめ」「テーマ設定」「部下への質問」の3つがあると分かった。前回は実践編として、「はじめ」「テーマ設定」に関するノウハウを紹介した。今回は「部下への質問」について詳しく紹介する。
1on1の場でテーマが設定できたら、上司が部下に質問を投げかけて話を聞く場面に移る。ここでのポイントは、設定したテーマについて部下が深く考えていくように質問することだ。1on1は部下のコンディション把握や上司と部下の関係性構築ができる場であると同時に、部下の自律を促進する場にもなる。部下の自律を促すためには、上司の質問が大切だ。
コーチングのスキルで部下のAha!を引き出す
1on1の社内普及を手掛けていて自身でも部下との1on1を進めるTMJの丸山英毅社長は1on1で上司が部下へ質問していく上で大切なのは、質問によって相手から行動の選択肢などを引き出していく「コーチング」のスキルだという。
丸山社長はさらに、上司が投げかけた質問が部下にとってそれまで考えたことがないような切り口だとより良いという。「質問について部下が考えることで、新たな発想や気付きを得てもらうことができるからだ。新たな気付きを得て表情がパッと変わるAha!(そうか!)の状況を作り出せたら、その1on1はうまくコーチングができて有意義だったと言える」と続ける。
部下にAha!の状況が生まれるようにするにはどうしたらよいか。丸山社長は「様々な質問の引き出しを持っておくとよい」と上司に向けてアドバイスする。
チームリーダーの部下であるAさんと1on1をしていたところ、「同じチームにいるメンバーBさんとの人間関係に悩んでいる。Bさんはやる気はあるが、私の思いが伝わらず、なかなか理解してくれない」という悩みを打ち明けられた上司のケースで見ていこう。
こうした場面で上司はつい「ではどう対処していけばよいか」といった対策を尋ねる質問を投げかけがちだが、それではAさんは深く考えることにならない。Aha!の状況も生まれにくい。
他責やネガティブなスタンスから離れる質問を繰り出す
丸山社長がこのケースの上司だとすると様々な質問を投げかけていくと言う。「Aさんは、うまくいかないのはBさんのせいだと他責のスタンスでいたり、Bさんをネガティブに捉えていたりしている。そこであえて他責やネガティブとは別の視点でAさんに物事を考えてもらう問いを投げかけるとよい」と話す。
他責のスタンスから離れて考えてもらう質問には例えば、「あなたはBさんとどんな関係性を築きたいと考えていますか」「あなたはBさんにどんな社員になってほしいと思っていますか」などがある。ネガティブな視点から離れてもらうことを狙って、「ところでこれまでを振り返ると、Bさんの一番の快挙は何でしたか」「あなたとBさんの共通点を3つ挙げるとすると何ですか」といった質問も考えられるという。
丸山社長が挙げる質問はどれも、部下のAさんが「チームメンバーのBさんは理解してくれない」という考えにこだわる立場から離れて、Bさんとの人間関係を様々な切り口で捉え直すきっかけにできるものばかりだ。丸山社長はさらにアクションを促す質問として、「Bさんがもしあなたの家族だとしたらどんなアプローチをしますか。もし弟だとしたらどんなことを尋ねますか」といったものが考えられるという。
新たな切り口や角度で物事を考えていけるように質問すると、部下の問題解決力の向上も見込める。部下に考えを深めてもらえば、「仕事の中で課題に直面したときにも、様々な切り口で課題を見つめるセルフコーチングができるようになる。1人の場合でも、冷静に対応できるようになる」(丸山社長)というメリットがある。