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テレワークが普及する中で浮き彫りになったコミュニケーション不足という課題の解決策として「1on1ミーティング」に注目が集まっている。全社で取り組むには戦略的に普及させる必要がある。そこで2回にわたって普及編として、1on1を続けている先進企業の工夫を紹介しよう。今回は損害保険ジャパン、ぐるなび、日立製作所そしてヤフーの4社を取り上げる。先進企業が1on1のノウハウを共有する取り組みには、リーダーシップやコミュニケーションのスキル向上のヒントにあふれている。

本特集の紹介内容。今回は第5回の「社内への周知・上司への研修」を取り上げる
本特集の紹介内容。今回は第5回の「社内への周知・上司への研修」を取り上げる
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 「社員同士のコミュニケーションの機会を増やしていかないと、スピード感を持って業務を進めることができない。テレワークを大規模に実施する中でそう考えるようになった企業の担当者から、1on1ミーティング(1on1)の導入について問い合わせが増えている」

 企業などに向けて1on1の導入支援を手掛けているリクルートマネジメントソリューションズ(リクルートMS)HRDサービス開発部パーソナルディベロップメントグループの星野翔次氏はこう語る。「上司から部下への通達で業務を進めてきた官公庁や金融機関からの問い合わせも少なくない」と続ける。

 テレワークを全社で大規模に取り組んでいくと、上司と部下の間など、社員同士でコミュニケーションを取る機会が減りがちだ。その解決策の1つとして注目を集める1on1だが、うまく仕切るには不慣れな上司も多い。1on1の位置付けを把握したり、コーチングのスキルなどを身に付けたりする必要がある。

 そこで1on1を全社規模で導入するためには、企業は1on1の概要を社内で紹介したり、鍵となる上司のスキルを向上させたりする施策を講じていく必要がある。今回は「社内への周知」と「上司への研修」について取り上げる。

損害保険ジャパン、対話支援型リーダー育成の一環

 「社内への周知」と「上司への研修」を組み合わせて1on1の全社普及を進めている1社が、損害保険ジャパンだ。2019年度に一部の部署で1on1のトライアルを実施して、「損害保険ジャパン版1on1」のあり方を検討。その結果を踏まえて独自の1on1ハンドブックを作成し、2020年度に入って全社に公開。1on1の社内普及を加速させている。

 損害保険ジャパンが全社規模で1on1に取り組んでいる背景には、2017年度から「上司であるリーダーが部下のメンバーに指示を出す」といった従来のマネジメント手法だけでなく、「リーダーが対話を通してメンバーを支援したり、メンバーの強みを引き出したりしていく」といった「対話支援型マネジメント」も取り入れてきたことが大きい。

 損害保険ジャパンの岡野友嘉人事部課長によると、指示を出すタイプのマネジメントだけでは社員1人ひとりが強みを発揮して高いパフォーマンスを出せるようにするのは難しいという。「事業環境の変化が激しく先が見えづらい状況でも強い組織をつくるには、リーダーが対話を通してメンバー1人ひとりの強みを引き出していったり、成長を支援したりしていくことが大事だ。このようなリーダーによる対話支援型を広げる中で、1on1に取り組んでいる」と説明する。

 損害保険ジャパン版1on1ハンドブックには、1on1の定義や目的、実施の頻度や時間、進め方、話し合うテーマなどがまとめられている。ハンドブックを作成した理由を岡野課長は「リーダーが定期的にメンバーと単に話をする、といった正しくない1on1も世の中では実施されている。そこで、リーダーがメンバーの仕事の不備などについて追及したり実績を確認したりする場ではなく、メンバーの成長のための場、メンバーが話す場であるといったことを強調するためにまとめた」と説明する。

損害保険ジャパン版1on1ハンドブックの内容の一部。定義や目的、頻度・時間といったガイドラインなどをまとめている
損害保険ジャパン版1on1ハンドブックの内容の一部。定義や目的、頻度・時間といったガイドラインなどをまとめている
(出所:損害保険ジャパン)
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半年間の「1on1導入プログラム」でトレーナーが上司を支援

 1on1は上司ではなく、メンバーが話す場であることを強調するために、ハンドブックでは「リーダーは傾聴が基本。話す割合はメンバーが70%、リーダーが30%」といった目安も示している。話す主なテーマも、メンバーの仕事の経験を振り返って深く掘り下げる「経験の振り返り」、今までのキャリアや今後のキャリアについて考える「キャリア形成」、職場や他のメンバーについて気になっていることなどの課題と改善について考える「組織における課題の改善」の3つを挙げている。

 損害保険ジャパンは2020年5月から、1on1に関する研修を実施してきた。特徴的な取り組みが同年10月から展開している「1on1導入プログラム」だ。全国の管理職に当たるリーダーおよそ300人に、1on1のスキルを備えたトレーナーが半年間、トレーニングを施して、リーダーが1on1をしっかり運営できるようにした。

 プログラムを主導しているのは、1on1に精通したトレーナーだ。社員向け研修などを手掛けるグループ会社、SOMPOビジネスソリューションズに所属している。トレーナーは、リーダーが担当している組織やメンバー構成などを踏まえて、リーダー役とメンバー役に分かれてロールプレーを交えたトレーニングを実施している。

 2019年度のトライアル段階でトレーニングを受けた中野英男企業営業第4部第3課課長は「普段のメンバーとの面談では相談事などに対してすぐ答えることができるが、1on1はメンバーの将来や仕事の捉え方といった内面にかかわることがテーマになるので、浅はかなことは言えない。リーダーとして人間力が問われると感じた」と振り返る。損害保険ジャパンはトレーニングをまだ受けていないリーダーを対象に、2021年度もプログラムを展開中だ。