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テレワークが普及する中で出てきたコミュニケーション不足という課題の解決策として「1on1ミーティング」に注目が集まっている。全社で取り組むには戦略的に普及させる必要がある。最終回は研修に関する事例の続きと、「斜め1on1」や「1個上1on1」といった、1on1の様々な用途を紹介しよう。

本特集の紹介内容。最終回の本記事では「上司への研修・様々な用途」を取り上げる
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 前回は企業における1on1ミーティング(1on1)の普及編として「社内への周知」「上司への研修」を取り上げた。今回も引き続き普及編だ。上司への研修にコーチングを採用する、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やコンサルティングといったサービスを手掛けるTMJの取り組みを見ていく。さらに先進企業による1on1の様々な活用法も紹介しよう。

コーチング中心のマネジメント研修の一環で

 ヤフーと同じく経営陣が率先して1on1の普及を進めてきたのが、TMJだ。「顧客の先回りをした提案ができるように社員の行動変容を目指して、2017年4月から1on1の全社導入を進めてきた」と、同社の丸山英毅社長は説明する。

 そのため経営陣が1年かけてコーチングについて学んでいくことにした。並行して、「コーチング型マネジメント研修」と呼ぶカリキュラムを作って現場の上司に向けて実施。部下に対してコーチングができる上司を増やしていった。2017年から始めた同研修は、2020年までに延べ170人ほどの全管理職が受講した。

 コーチング型マネジメント研修の中では、部下が主体的に仕事を進められるようにするための施策の1つとして1on1を研修対象に組み込んでいる。この研修は人材育成や研修を手掛ける部門「TMJユニバーシティ」が実施している。

コーチングを知らずに1on1をすれば失敗の恐れあり

 経営陣がコーチングを学び、上司に向けてコーチングの研修体制を整えた背景には、丸山社長自身が、企業経営者向けのエグゼクティブコーチングを受けたり、コーチング研修を受けてコーチの資格を取得したりした中で得た気付きがある。

 その気付きとは「コーチは相談相手と課題などは共有しても、アドバイスをするのではない。相談相手に質問を投げかけていくことで、相談相手の思いや取り組んでいきたいことをうまく整理したり、過去の経験を振り返るのに別の視点を提示したりする存在だ」といったことだ。

 「こうしたコーチングのことをしっかりと押さえずに1on1を進めていくと失敗する恐れがあると考えて、学びを重視することにした。経営陣が学んでトップダウンで1on1に取り組んでいくだけでは定着しないと考えて、TMJユニバーシティによる研修も実施することにした」と丸山社長は説明する。

研修は間隔を空けて実施、実践して振り返る

 TMJのコーチング型マネジメント研修では、事前に動画を中心としたeラーニングを受講したり理解度テストなどを受けたりして、前提知識を身に付けた上で受講してもらうようにしている。

TMJがコーチング型マネジメント研修に関連して用意しているeラーニングのコンテンツの例。上司が部下に投げかける質問の例などを学べるようにしている
TMJがコーチング型マネジメント研修に関連して用意しているeラーニングのコンテンツの例。上司が部下に投げかける質問の例などを学べるようにしている
(出所:TMJ)
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 コーチング型マネジメント研修の特徴は、4回ある研修日の間隔を、1カ月程度空けて実施している点だ。「受講者は、ある回の研修で学んだことを次の回までに実践する。次の回では、うまくいったかどうか、うまくいかなかった場合は原因と改善点などを考え、1on1と同じように振り返ってもらうようにしている」と、研修を担当しているTMJ事業統括本部事業推進本部HRM推進部TMJユニバーシティの山田敬三氏は説明する。

TMJが実施しているコーチング型マネジメント研修に関する資料
TMJが実施しているコーチング型マネジメント研修に関する資料
(出所:TMJ)
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3人1組のロールプレーで質問の選び方を学ぶ

 研修の特徴はもう1つある。1on1をするコーチ役とコーチを受けるクライアント役、2人の1on1を見るオブザーブ役の3人で5分間、1on1のロールプレーを実施している点だ。「コーチ役が投げかける質問の選び方が重要だという点を特に学んでほしいと考えている。質問1つでクライアントの思考が深まることを実感してもらいたい」と丸山社長は話す。

 現在はWeb会議の機能を備える米Microsoftのコミュニケーションツール「Microsoft Teams」を使ったロールプレーになるが、「課長レベルの研修参加者からは、同じテーマについても、自身が考えているものとは別アプローチの質問があると気付き、参考になるといった声が出ている」と、TMJユニバーシティの山田氏は説明する。

 丸山社長は「研修以外でも半年に1度といった頻度で、第三者を交えて1on1を実施して、コーチ役の上司はフィードバックをもらうとよい」と話す。フィードバック役は、自身も仮想的にコーチ役になって質問を考えると良いフィードバックができるという。

 研修を通して丸山社長は「コーチング用語が社内の共通言語になってきた。部下が話しやすい環境づくりも進んでいる」と効果を語る。山田氏も「1on1で部下の物事の捉え方は、主体的に受け止めているアカウンタビリティーなのか、それとも被害者意識を持って受け止めているビクティムなのかなど、研修で学んだコーチング用語を踏まえて、(上司が)1on1や自身の振り返りに生かすことができている」と説明する。