若手エンジニアたちが今、面白い。VR(仮想現実)・AR(拡張現実)やAI(人工知能)、スパコン、暗号、自動運転、デジタルコンクリート、データセンシング――といった各分野でニューウェーブを巻き起こしている。
本連載は日経クロステックが注目する若手技術者・研究者を取り上げる。最新技術だけでなく、それを生み出す、もしくは支える人物像に迫る。
ものの手触りや反応を振動などで再現する触覚フィードバック技術。この分野で頭角を現す若手技術者がソニーグループ R&Dセンター 兼 米ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の中川佑輔だ。
中川は2021年、35歳でソニーGの課長となり、同社で触覚フィードバック技術を開発する部署を率いる。すご腕エンジニアが集うソニーGで、異例の若さだ。
チームの成果も群を抜く。20年に発売したSIEの看板商品「Play Station (PS)5」に、中川らの研究成果が一押し技術として採用された。
PS5のウリの1つが、コントローラーに搭載した「リアルで多彩」な触覚フィードバック技術である。例えば車が泥道を走るときの重いずしりとした感触や、砂浜や氷雪を移動したときの感覚などを再現できる。中川のチームが生み出した成果などを基に、SIEの開発チームが実用化した(図1)。
どのメーカーでもそうだが、研究成果が量産品に採用される確率は低い。中川のチームは、わずか4年で「死の谷」を乗り越えられるほどに優れた成果を生み出した。
触覚フィードバック開発者の先駆けに
中川がソニーG(当時ソニー)に新卒入社したのは、12年のことである。東京大学大学院時代から触覚フィードバックを研究しており、同社では同技術の先駆けとなる1人だった。ソニーは振動機能を搭載した製品を長年開発している。ただ設計部門などが開発を担っており、研究部門のR&Dセンターには研究者がほとんどいなかった。
12年当時は、多彩な触覚フィードバック技術を搭載した製品が芽吹き始めたころ。R&Dセンターでも同技術に注力するため、中川にかける期待は大きかった。
中川に与えられた指示は、映像と触覚フィードバック体験を組み合わせることだった。「触覚フィードバックで光るUX(ユーザー体験)を見つけて、ソニーの製品やサービスに導入することがミッションだった」と中川は振り返る。