若手エンジニアたちが今、面白い。VR(仮想現実)・AR(拡張現実)やAI(人工知能)、スパコン、暗号、自動運転、デジタルコンクリート、データセンシング――といった各分野でニューウェーブを巻き起こしている。
本連載は日経クロステックが注目する若手技術者・研究者を取り上げる。最新技術だけでなく、それを生み出す、もしくは支える人物像に迫る。
「自動車教習のあり方が一変するかもしれない。AI(人工知能)でも、人間の指導員と変わらない評価技能がある」――。
2020年9月、福岡県大野城市。静かな住宅街の一角に、南福岡自動車学校はある。自動車学校の教習コースは、残暑で気温が30℃を超えていた。その暑さからか、あるいは緊張からか、汗を額に浮かべながら、真剣な面持ちで教習車が戻ってくるのを待つ男がいた。
名前は、村木友哉。自動運転開発の新興企業ティアフォーに入社して、1年もたっていない若手エンジニアである。
その日は、AIを使って人の運転技能を評価する「AI指導員」を初めてお披露目する場だった。村木が開発を率いた「AI指導員」の実力を、この場に集まった自動車教習所の経営者や指導員に見てもらう。自動車教習所の「人間指導員」による実地試験を、AI指導員が受けるわけだ。指導員たり得るほどに、人の運転技能を判定できる実力があるのか、と。運転のプロである教習所の指導員たちの見る目は厳しい。
LiDAR(赤外線レーザーレーダー)などのセンサーと、AIで運転技能を判断するAI指導員機能を搭載した教習車が出発して、戻るまでのおよそ15分間。村木にはとても長い時間に思えた。クランク、S字カーブ、坂道。自動車教習所の難所とされるそれらのコースは、村木が何度も実験で走らせたコースだ。それでも不安がよぎる。寝る間を惜しんで調整したが、果たして万全だったか……。
教習車がコースを一通り巡り、関係者の前で止まる。それまで話し合っていた関係者たちは口を閉じ、車両から降りて来る「人間指導員」へと一斉に鋭い視線を飛ばす。そして、聞こえてきたのは興奮交じりの声だった。「これほど技能の判定精度が高いとは思わなかった。すぐにでも使えそうだ」――。
村木は一瞬涙が出そうになるのをこらえながら、仲間の顔を見つめる。みな当然と言わんばかりの笑顔だ。どうやら心配していたのは自分だけだったらしい。開発リーダーを突然ふられて1年近く。村木は悪戦苦闘した日々を思い返していた。