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 若手エンジニアたちが今、面白い。VR(仮想現実)・AR(拡張現実)やAI(人工知能)、スパコン、暗号、自動運転、デジタルコンクリート、データセンシング――といった各分野でニューウェーブを巻き起こしている。

 本連載は日経クロステックが注目する若手技術者・研究者を取り上げる。最新技術だけでなく、それを生み出す、もしくは支える人物像に迫る。

會澤高圧コンクリート 東 大智(あずま・たいち)氏
會澤高圧コンクリート 東 大智(あずま・たいち)氏
會澤高圧コンクリートで3Dプリンター技術の研究開発を担当する東大智氏。2011年入社の32歳(2021年4月時点)。休みが合えば、全国どこにでもテクノポップユニット「Perfume」のライブに“遠征”する行動力の持ち主(写真:東大智)
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 デザインの自由度が広がるだけでなく、省人・省資源化や工期短縮など、様々な可能性を秘めている3Dプリンター技術――。世界では住宅など様々な活用例が出てきており、日本の建設業界でも研究開発が進みつつある。その最先鋒といえるのが、會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)だ。同社はこれまでも、バクテリアを用いた自己治癒コンクリートやインフラ維持管理用ドローンなどの最先端技術を積極的に取り入れてきた。

 そして20年9月、ついに同社はセメント系3Dプリンターを用いて公衆トイレ2基の建設を実現した。公衆トイレの高さは約2.7mで、床面積はそれぞれ約10m2と約6m2だ。セメント系の3Dプリンターで実際に小規模建築物を“印刷”したのは国内初となる。

 使用したプリンターは、スイスの産業用ロボット大手ABBのロボットアームをベースとして、オランダのスタートアップ企業「Cybe Construction(サイビ・コンストラクション)」が開発したものだ。

會澤高圧コンクリートが「印刷」した2基のトイレ。左はインド向けのプロトタイプ。右は国内用(写真:會澤高圧コンクリート)
會澤高圧コンクリートが「印刷」した2基のトイレ。左はインド向けのプロトタイプ。右は国内用(写真:會澤高圧コンクリート)
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 3Dプリンターを使うといっても、固まる速度など従来のセメントとは違う調整が必要となる。3Dプリンター活用に向けた技術を研究開発しているのが、會澤高圧コンクリートの東大智氏だ。11年入社で32歳(21年4月時点)と若手ながら、同社執行役員でもある。

 「3Dプリンターの可能性は無限大だ。これまでは実現が難しかったデザインも製作できるようになる。地震国の日本では3Dプリンターで製作したものを構造部材としてまだ使えないが、型枠やオブジェなどは製作できる。研究開発を進めて、日本での普及を後押ししたい」と東氏は意気込む。

インド向けプロトタイプのトイレは鉄筋コンクリート造。室内は垂直に立っており、この壁に沿って配筋している(写真:日経クロステック)
インド向けプロトタイプのトイレは鉄筋コンクリート造。室内は垂直に立っており、この壁に沿って配筋している(写真:日経クロステック)
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 同氏が3Dプリンター技術に関わることになったのは「流れ」だったという。入社当初はプレストレストコンクリートなどの設計を手掛ける部門に配属された。15年にR&D(研究開発)部門であるアイザワ技術研究所(札幌市)の研究員職を掛け持ちしたことをきっかけに、3Dプリンターの研究開発に取り組むようになった。

 きっかけは「流れ」でも、担当になってからは3Dプリンター技術の研究開発に没頭した。オランダやドイツなどの最先端技術を視察するために何度も海を渡った。デザインをデータ化するための手順やロボット制御、材料制御を学んで持ち帰った。

 19年、インドに3Dプリンターで製作するトイレを設置するプロジェクトが立ち上がった。そのために組織された「SDGsチーム」のリーダーに東氏は抜てきされ、チームをまとめる立場となった。20代2人、30代3人、40代1人と若手社員が中心のチームだ。会社の活動を社会に発信することも1つのミッションだったため、メンバーの中には研究職ではなく、広報職の社員もいた。「『私たちは何をするの?』という段階からチームが始動した」(東氏)。

SDGsメンバー。「メンバーの誕生日にはプレゼントをあげたりするなど仲がいい」と東氏(写真:東大智)
SDGsメンバー。「メンバーの誕生日にはプレゼントをあげたりするなど仲がいい」と東氏(写真:東大智)
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