若手エンジニアたちが今、面白い。VR(仮想現実)・AR(拡張現実)やAI(人工知能)、スパコン、暗号、自動運転、デジタルコンクリート、データセンシング――といった各分野でニューウェーブを巻き起こしている。
本連載は日経クロステックが注目する若手技術者・研究者を取り上げる。最新技術だけでなく、それを生み出す、もしくは支える人物像に迫る。
計算機を使って、分子などの膨大な組み合わせから新材料を見つけ出す「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」。この分野で頭角を現す若手技術者が、パナソニック テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 主任研究員の横山智康である。MI研究の第一人者と言え、横山が学んだ京都大学の田中功教授は「10年に1人の逸材」と評する。横山は当時29歳の若さで、次世代太陽電池の材料解析を大きく進展させる画期的な手法を編み出した。
横山は2020年、次世代の太陽電池で最有力候補とされるペロブスカイト型において、その物理的性質(物性)予測にかかる計算時間を、従来の500分の1となる21時間にできる手法を確立した*1。しかも着想から成果を出すまでの期間はわずか1年。成果に10年かかるのがざらな材料研究の世界で、驚異的なスピード感である。
*1 パナソニックは21年2月、シリコン系太陽電池の生産から撤退したと発表したが、「次世代太陽電池の開発は続けている」(同社)という。
“夢”の太陽電池
ペロブスカイト型太陽電池は、有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト結晶*2を、光に反応する感光材料に使ったもの。低コストで製造できる上に、有機材料を使うために折り曲げられる特徴がある。ビルの側面などに設置しやすく、再生可能エネルギー導入の切り札の1つといわれる。現在主流の太陽電池は無機化合物で造るシリコン系で、折り曲げにくい。
*2 ペロブスカイト(灰チタン石)と同じ結晶構造をペロブスカイト結晶(構造)と呼ぶ。150度未満の低温塗布で発電膜を作製しても、不純物が残りにくい。高い発電効率が特徴。
加えて、無機分子(骨格)に有機分子を取り入れるハイブリッド構造にすれば、光を電気に変換する比率である変換効率の高さと柔軟性という、無機と有機のそれぞれの長所をともに取り入れられる(図1)。ペロブスカイト型太陽電池の変換効率は約25%で、従来のシリコン系太陽電池と同程度に達する。まさに夢の太陽電池だ。