第8の失敗
かつて日本の経済が低迷している時期に、韓国のある自動車メーカーが電気自動車(EV)の開発に力を入れ始めました。現在よりもEVの話題が少ない時の話です。同社はアジア市場戦略車として農村向けEVの開発に着手しました。そのリーダーは36歳の男性でした。私の事務所はそのチームと技術コンサルタントの契約を結びました。
ある日の設計審査で、私の事務所が設計したクルマの軽量ボディー、つまり、モノコックボディーは「却下」されました。理由は、新規技術が多過ぎる構造設計だったからです。私の事務所は日ごろ、トラブル要因の98%が潜在している「トラブル三兄弟(新規技術、トレードオフ、変更)」について口を酸っぱくして指導しています。にもかかわらず、そのトラブル三兄弟をふんだんに取り入れて設計してしまったのです。
近年、私の事務所に韓国企業からEV関連の技術的な質問や競合機分析の依頼が増加しています。日本企業からのそれは「皆無」となりました。近い将来、日本のEVはどうなってしまうのか、とても心配しています。
今回のコラムはEVのコア技術である駆動用モーターとリチウムイオン2次電池、軽量フレーム構造について、私の事務所が「門外不出」としていた技術情報を公開します。
ブラシレスモーターの開発用FTA
「EV用モーターとは、〇〇タイプが代表的です」と言い切るのは、まだ時期尚早と思います。EV用モーターは現在、発展途上です。図1を見てください。「EV用の駆動モーターは何ですか」と聞かれたら、現在の主流はACモーターであり、小型車はDCモーターと私は答えます。その理由は次の2点です。
[1]ACモーターは大きく重く高価。しかし、細やかな運転制御ができる。
[2]DCモーターはACモーターの逆。
特徴の違いから、用途を容易に推定できます。EV駆動用モーターに求められる性能は、何と言っても以下の2点です。
(1)モーター効率(省エネ)
(2)静粛性(低騒音)
(1)のモーター効率とは、エンジンで言えば燃焼効率や燃費のことです。一方、(2)の静粛性を求めるのであれば、選択肢は「ブラシレスモーター構造」となります。非接触ですから、静粛性に優れているのは自明です。設計工学における「設計思想とその優先順位」からして、当然の技術選択となります。
では、これまで門外不出としてきた「静粛かつ高効率モーターの開発用FTA」を図2に公開します。私の事務所が作成した、静粛性と高効率を追求したブラシレスモーターに関するマニアックなFTA(Fault Tree Analysis)です。韓国の大手企業のコンサルテーションで使用しました。私の事務所としては自信作です。モーターメーカーでさえ作成できないFTAと自負しています。もし、そうでなければ一笑に付してください。