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第9の失敗

 日本製品の社告やリコールのニュースが途絶えません。私の事務所による調査では、トラブル発生の第1原因は、その大本である要因の分析が十分にはなされていないことです。要因さえしっかりと押さえれば、トラブルは確実に減少するはずです。それができていないという最大の証拠が社告やリコールであり、言い訳ができません。私の事務所では、クライアント企業に「トラブル3兄弟」を何度も繰り返し指導しています。トラブル3兄弟とは、「新規技術」「トレードオフ」「××変更」のことです。これら3大要因がトラブルの約98%を占めているというのが、私の事務所の分析です。私の事務所のクライアント企業は社告やリコールとは無縁です。

 日本製品の社告やリコール発生の第2の原因は、カレント商品の10%以上のコストダウンです。カレント商品とは、現在量産中の製品のことです。特に、自動車関連企業のトラブルの多くはこの要因で発生しています。数年前、「30%コストダウンをどうしてもお願いします」と泣きついてきたクライアント企業に対し、私の事務所は低コスト化の「禁じ手」である「大黒柱を削って屋根が落ちる」というものを指導してしまいました。「大黒柱」とは、低コスト化のために着手してはいけない重要部品を意味します。クライアント企業には何度も謝罪しました。「禁じ手」の指導は失敗だったと反省しています。

低コスト化が進まない3つの理由

 私の事務所の重要なコンサルテーションメニューの1つに、設計が押さえるべき「技術者の4科目」があります。それはQ(Quality:品質)、C(Cost:コスト)、D(Delivery:期日)、Pa(Patent:特許)です。略して、「QCDPa」です。さらに、Q>C>DまたはPaという優先順位があります。

 実は、Qばかりを追い求める日本企業には、低コスト化が進まない3つの理由が存在します。その1つ目が、低コスト化のための道具を有していないからです。図1を見てください。世界には低コスト化の手法として7個(従来の手法+最新の手法)が存在していますが、どの手法も取り入れていない日本企業が多くあります。

図1●世界に存在する低コスト化手法は合計7個
図1●世界に存在する低コスト化手法は合計7個
(作成:國井技術士設計事務所)
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 Qの次に重要な設計ファクターがCです。低コスト化のためには道具が必要なのですが、意外なことに、日本企業が扱っている道具がないと私は見ています。従って、企業自ら低コスト化ができないため、ベンダーいじめと従業員の賃金抑制が常とう手段になっている企業が少なくありません。

 ここで重要なことは、前述の道具を持ち合わせていない企業は、カレント商品の10%以上のコストダウンを安易に実行してしまうことです。「知らぬが仏」や「Ignorance is a bliss(無知は至福である)」とは、このことを意味しているかもしれません。数年前、私の事務所は指導しなければならない立場でありながら、低コスト化の「禁じ手」を使ってしまいました。

TRIZが示す低コスト案は「分割」

 日本企業では低コスト化会議が常に開催されています。しかし、その案は部品の一体化と樹脂化が多くを占めます。Qばかりを追い求める日本企業に低コスト化が進まない理由の2つ目が、この部品の一体化にあります。部品点数を削除することは低コスト化の定番となっています。2つ以上の部品を一体化すれば、少なくとも部品の1点は削除されます。ベテラン技術者が好む案であり、今なおそれが現場に言い伝えられています。これこそが、Qばかりにこだわり、Cに無関心な日本企業の実態をよく表現しています。

 「TRIZ40の発明原理」を見ると低コスト化案の第1位は「分割」です。TRIZとは、1946年にロシア(旧ソ連)で開発されました。世界の250万件に上る特許の統計的分析に基づく問題解決技法を提唱し、日本へは1990年代後半に導入されました。図2は、私の事務所とクライアント企業が作成した「TRIZ40発明原理の絵辞書」であり、オリジナルの辞書です。

図2●TRIZ40の発明の原理から低コスト化案の第1位は分割
図2●TRIZ40の発明の原理から低コスト化案の第1位は分割
(作成:國井技術士設計事務所)
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