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部品共通化の発祥はどこ?

 図1に示したモジュール化やプラットホーム化に向かう流れは、自動車メーカーから始まったと捉えている技術者が多いのではないでしょうか。しかし、私の事務所の調査によれば、それは正しくありません。発祥は大型コンピューターメーカー(メインフレーマー)です。次の3つを狙いました。

  • ①電気部品の信頼性向上
  • ②故障時におけるメンテナンス時間の短縮
  • ③開発担当の領域の明確化

 ①の電気部品の信頼性向上については、1つの電気素子が故障した場合、その周辺部品も何らかのダメージを受けている場合が多いのです。そのため、コンピューターの宿命である信頼性向上のために、共通化を推進しました。

 すると、②の故障時におけるメンテナンス時間の短縮を追求した理由は、簡単に想像できます。故障した箇所を現地で詳細に調査することは、顧客にとっては迷惑なことです。保守員がおおよその故障箇所を発見することは短時間で済みます。そこで、部品全体、つまりユニット全体やモジュール全体の交換で早期復旧を目指しました。詳細な原因追究は工場で実施するのです。

 また、この大型コンピューターメーカーに限らず、米国企業の職場では仕事の役割分担が明確化されています。「他人の仕事はフォローしない」などと悪口を言われる場合もありますが、与えられた領域を曖昧にするよりもましではないかと私は思います。

 つまり、モジュール化やプラットホーム化に向かう流れは、「信頼性向上のため」という大きな目的のために生まれたのです。そして、ドイツの自動車メーカーも同様の目的で導入しました。ところが、日本の自動車メーカーや一部のメディアが目的を「低コスト化」にしてしまい、それ故に大規模リコールにつながっていると私の事務所ではみています。

設計書がない! ガラパゴス大国の日本企業

 図2は、私が書籍やコラムで何度も紹介しているものです。左側が「正統派の設計フロー」、右側は「手抜きの設計フロー」です。

図2●正統派の設計フローと手抜きの設計フロー
図2●正統派の設計フローと手抜きの設計フロー
(作成:國井技術士設計事務所)
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 私の事務所の調べでは、設計書のない日本企業は珍しくありません。設計書を書けない設計者が日本企業にはいるのです。それでも設計部や設計者と呼ぶのには、私は大きな疑問を感じます。世界では、設計書を審査することを設計審査(デザインレビュー、DR)と呼んでいます。では、設計書を持たない日本企業の設計審査とは、一体、何を審査しているのでしょうか。

 正統派の設計フローにおいて注目すべきは、赤枠で囲んだ「設計思想とその優先順位」です。商品開発ではこの部分が最も重要となります。ところが、先の通り設計書がなく、設計思想とその優先順位も設定していない日本企業が少なくないのです。

 該当する部品や組体が「自社の標準品だから」あるいは「共通品だから」という理由で、何も考慮せずに各商品に組み込む。そして、何の疑いもなく設計審査を通す──。そうした日本企業が多いことに、私の事務所は調査して気づきました。

 大規模リコールへの発展を防ぐ対策は、標準部品や共通部品の1つひとつに「命」を与えることであり、その「命」の設定が正しいか否かを審査することです。では、「命」を与える設計とは、何のことでしょうか。

命を与える設計でリコールを防ぐ

 それこそが、設計思想とその優先順位のことです。図3を見てください。

図3●共通部品に命を与える設計の例
図3●共通部品に命を与える設計の例
(作成:國井技術士設計事務所)
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 車種Aの「イグニッション・スイッチ」における電気抵抗について、設計思想とその優先順位の設定を、例えば①信頼性、②サイズ、③低コストとしたとします。これに対し、車種Bの設計思想とその優先順位の設定を、例えば④低コスト、⑤入手性、⑥精度としたとします。この場合、全く同じ電気抵抗でも、車種AとBとでは共通化の視点で全くの別部品となります。④~⑥が、信頼性、サイズ、低コストとなって初めて2つの電気抵抗は「共通部品」であると判断するのです。

 設計書がなく、設計思想とその優先順位の設定ができない日本企業が、共通部品に「命」を与えることはできないのです。

國井 良昌(くにい よしまさ)
國井技術士設計事務所 所長
國井 良昌(くにい よしまさ) 横浜国立大学工学部機械工学科卒業。日立製作所および富士ゼロックス(当時)にて、高速レーザープリンターの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年、國井技術士設計事務所を設立。設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師として活動中。『ライバルを打ち負かす設計指南書 攻めの設計戦略』(日経BP)、『ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で「即戦力」』(日刊工業新聞社)など著書多数。技術士(機械部門:機械設計/設計工学) 日本技術士会 機械部会。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。山梨大学工学部 非常勤講師。山梨県工業技術センター客員研究員。高度職業能力開発促進センター運営協議会専門部会委員。