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最後(第17)の失敗

 私の事務所が最も得意とする業務内容は、競合機分析と設計改革の設計コンサルテーションです。どちらもライバルのコンサルタントがいないため、依頼があればほぼ100%受注できます。しかし、常に顧客の動向をリサーチしなくては契約までたどり着くことはできません。

 それは一般商品の開発と全く同じです。市場調査を通して、顧客のニーズを常に把握しなくてはなりません。そこで「Twitter」などのSNS(交流サイト)を利用してみました。これを使って分かった日本人設計者に多い特徴は、薄給で不満だらけ、自己流で“井の中の蛙(かわず)大海を知らず”の状態、自信過剰というものでした。

 ネガティブなものばかりとなってしまいました。それもそのはず、Twitterへの投稿は自身の不満を投稿し、それに「いいね」ボタンを押してもらって多くの仲間から共感を得たいからです。結局、偏った情報であったと反省しています。その証拠に、クライアント企業の協力を得てアンケートを取ると、前向きな思考の設計者が大半を占めることが判明し、ほっと胸をなで下ろしています。

 このコラムも今回で最終回を迎えました。最後は「設計者の品格」と題して、日本人設計者を取り巻く環境をまとめてみたいと思います。情報源は、失敗事例を反省しつつTwitterと、私の事務所のクライアント企業に勤務する若手設計者へのアンケート結果です。

雇用三原則とは

 雇用には「雇い主」と「従業員」が存在します。雇い主と従業員との間には「雇用三原則」が存在します(図1)。

(1)好きであること(その仕事が好きであること)。

(2)ルールが確立していること(雇い主と従業員、従業員同士、社会生活でのルールが確立していること)。

(3)経済的安定性(Pay for Performance;仕事の成果に対して金銭、もしくはそれに相当するものが得られること)。

図1●雇用三原則(右側の青色部分)
図1●雇用三原則(右側の青色部分)
(出所:國井技術士設計事務所)
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 これら3つが「同時」に備わっていなければ、満足する職場にはなりません。雇用三原則においてこの「同時」という条件が破壊されたとき、いわゆる「ブラック化」が始まります。例えば、「好き」の部分では、わざと嫌な仕事を従業員に強要することがあります。「ルール」の部分では、サービス残業や各種のハラスメントが発生することがあります。最後の「経済的安定性」では、むやみな減給を強いられることがあります。総じて、雇い主側に問題がある傾向が少なくありません。

設計三原則とそれを崩壊させる日本人設計者の副業

 実は、この「雇用三原則」は設計職にも当てはまります。それが「設計三原則」です。

  • ① 設計が好きであること(出図して部品が完成することを楽しみにできること)。
  • ② 加工側とのルールを守ること(顧客である次工程とのルールを守る)。
  • ③ この仕事に対して金銭的に見返りがあること(Pay for Performance)。

 そして、この設計三原則においても「同時」という条件が崩れた場合は、先ほどと同様の現象が生じます。例えば、①では、好きでもないのに設計職に就いている人がいます。②では、加工側とのルールの存在すら知らないのんきな設計者が存在しています。何がのんきかといえば、例えば、常識外の加工精度や低コスト化を要求したり、加工・組み立てが不可能な図面を平気で出図したりする設計者のことです。エンジニアではなく勘で仕事をする「カンジニア」、設計者ではなく「造形者」と揶揄(やゆ)される人たちです。

 そして、Twitter上でよく見られるのが、金銭的な見返りに不満を持つ③の設計者というわけです。雇用三原則の場合は雇い主側に問題があると述べましたが、設計三原則の場合は、設計者側に問題がある場合が少なくありません。ここが重要な点だと私は捉えています。

 しかし、日本人設計者は世界で通用する「Performance」を雇い主側へインプットしているのでしょうか。この代表的な崩壊現象が「副業」に現れていると私はみています。雇い主側へのインプットなき副業。これは、日本企業だけの「ガラパゴス現象」だと思います。

 私の事務所にとって重要なクライアントである韓国のある大企業では、少なくとも設計者は業務指名制です。スポーツ選手と同じく、実力によって指名されるのです。副業をやっていたら、そのポジションは他の設計者に取られてしまいます。私の事務所では、日本企業における「ものづくりの崩壊は副業から」と分析しています。

企業を崩壊させる設計者、企業を活性化させる設計者

 私は設計コンサルタント業務を通して、設計者でありながらCAEやFMEA(故障モード影響解析)、特許、検図、設計審査、部下の育成、自分が設計した部品費の概算の全てができず、ノルマがないにもかかわらず、簡易設計書(DQD、図2)も書けない「ないない尽くし」の人を私は何人も見てきました。

 「Performance」がない設計者に、③の金銭的な見返りを主張する権利はないと思います。反論もあるかと思いますが、皆さんの職場で話し合ってみてください。貴社の営業部の社員と比較してみることをお勧めします。

図2●隣国企業の設計審査で却下された電気自動車(EV)のDQD
図2●隣国企業の設計審査で却下された電気自動車(EV)のDQD
(作成:國井技術士設計事務所)
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 営業部の社員は、営業成績が物を言います。その成績はランキング化され、オフィスの壁に掲示されることもあります。ノルマを課せられるのも当たり前。日報を上司に提出し、毎朝、日報会(朝礼)が開催されるほどの厳しい職場です。この厳しさが設計部にあるでしょうか。

 今、日本企業で最もメスを入れるべき部署は設計部であり、改革の効果が期待できるのも設計部です。今、企業を活性化させる鍵は設計者が握っていると言っても過言ではありません。これが私の事務所のメイン業務となっています。詳しくは、書籍『ライバルを打ち負かす設計指南書 攻めの設計戦略』(日経BP)を参照してください。