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 クレジットカード情報、医療データ、国家機密――。インターネットでやりとりする秘密情報が、将来的に危険にさらされる。今後、量子コンピューターの性能が向上することで、現行の暗号化通信が破られてしまう危険性があるからだ。量子技術を使った「量子暗号通信」は、量子コンピューターでさえも破ることができないとされ、世界中で開発が進む。本連載では、2021年4月に量子暗号通信事業を本格的に開始する東芝デジタルソリューションズの開発者が、技術の基礎から実際に至るまで解説する。

Q. 量子暗号通信って何?

A. 量子コンピューターのようなどんなに高速なコンピューターが現れようとも、「理論上絶対に破られない」暗号通信技術です。量子コンピューターの性能が今後、向上すると、現在の暗号化通信が簡単に破られ、クレジットカード情報など大事な情報が漏えいする危険性があります。これに対抗する技術が、量子暗号通信です。

東芝の開発する量子暗号通信装置
東芝の開発する量子暗号通信装置
東芝は2021年4月、量子暗号通信の事業開発を同社子会社の東芝デジタルソリューションズに移管した。(撮影:日経クロステック)
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秘密情報が危険にさらされている

 インターネットが登場してから、およそ50年。世界中の人々や企業がつながる情報通信ネットワークは、私たちの生活には無くてはならないものとなりました。昨今はIoT(Internet of Things)化も進み、私たちを取り巻く「モノ」もネットワーク化され、人間社会のネットワークへの依存度は、今後ますます高まっていくでしょう。

 インターネットは黎明(れいめい)期から、極めてオープンに誰もが自由に通信できることで普及が進みました。その一方で、今では通信する当事者以外に漏れては困る情報が、大量に流れるようになっています。

 身近な例では、ネット通販のようなEC(電子商取引)サイトやインターネットバンキングなどがあります。クレジットカード情報や口座取引情報がネットワークを流れます。これらの情報が簡単に漏れるようでは、サービスが成立しないのは明らかです。

 企業においては、どれだけ貴重なデータであっても、ディザスターリカバリー(災害復旧)対策として、ネットワークを介して遠隔のバックアップサイトにそのデータを保管し、通信でそれらにアクセスする必要があります。これらが漏れると、企業のコアコンピタンス(競争優位にある核となる能力)が失われることになりかねません。

 これらの情報は、通信途中で外部に漏えいしないよう、暗号化通信によって守られています。この暗号化通信が安全であるからこそ、私たちは安心して情報通信ネットワークに依存できます。

 しかし、量子コンピューターの発展により、この前提が大きく揺るぎます。大規模な量子コンピューターが登場すると、その圧倒的な計算能力により暗号化通信が簡単に破られ、大事な情報が漏えいする危険性があります。

 これに対抗する技術が、量子暗号通信です。量子コンピューターのようなどんなに高速なコンピューターが現れようとも「理論上絶対に破られない」暗号通信技術です。