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Q.量子暗号通信は絶対に破られないの?

A. 量子暗号通信は理論上は絶対に破られません。量子暗号通信は光の最小単位(量子)である光子を送ることで暗号鍵を伝達します。光子を盗聴されたことを確実に検出できるため、盗聴された情報を暗号鍵に使わないことで、絶対に破られない暗号通信を実現しています。

 今回は、量子暗号通信がなぜ「理論上破られない」のか。その基本的な仕組みからひもといていきます。

 量子暗号通信は、正式には量子鍵配送(QKD、Quantum Key Distribution)と呼ばれます。情報を暗号⽂に変換し、また暗号文を元の情報に変換する「鍵」を、量子力学の原理に基づいて送る技術です。この「鍵」を光の最小単位(量子)である光子にのせ、光ファイバーを使って相手に送ります。量子暗号通信を使えば、どんなに高速な計算機が登場しようとも盗聴は不可能です。「鍵」が通信の途中で盗聴者に漏れることはありません。

 代表的な量子暗号通信は「BB84(*)」と呼ばれる方式です。この方式では、光子1個に「1」と「0」の値で表現できるビット情報をのせて送信します。複数の光子の送信で構成するビット列が「鍵」情報になります。

 光は粒子としての性質に加えて、波の性質も持っており、あらゆる方向に振動します。この光を、特定方向の振動だけを通す偏光フィルターに通します。縦や横などの光の振動方向(偏光方向)に、「1」もしくは「0」の値を割り当てることで、ビット情報を相手に送ることができます(図1)。

*Bennett and Brassard, Proceedings of IEEE International Conference on Computers Systems and Signal Processing, pp 175-179, 1984.

偏光フィルターを使って「1」と「0」の値を表現する
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偏光フィルターを使って「1」と「0」の値を表現する
(出所:東芝の資料を基に日経クロステックが作成)

 BB84でビット情報を割り当てられる偏光方向は4つあります。縦、横、右斜め、左斜めです。ここで縦と右斜めの偏光を「0」、横と左斜めの偏光を「1」とすることで、送信機と受信機の間でビット情報をやり取りできます。

 例えば、送信機と受信機が縦横いずれかの偏光フィルターを選択したとします。送信機が「1」を表す横偏光を送信すると、受信機が横偏光を通すフィルターをセットした場合、光子はそのまま通り抜けます。一方で、送信機が「0」を表す縦偏光を送信した場合には、受信機が横偏光を通すフィルターのままでは、光子は通り抜けることができません。つまり受信機側が横偏光フィルターの場合、光子を受信すれば、横偏光の光子であるため「1」、受信しなければ、縦偏光の光子として「0」と判断できます。

 一方で、送信機が斜め偏光で送信し、受信機が横偏光を通すフィルターで受信した場合はどうでしょうか。この場合、横偏光を通すフィルターを通る光子と、通り抜けられない光子が発生し、「1」と「0」をランダムに受信することになります。

 送信側と受信側で縦横あるいは斜めの偏光方向が一致する場合のみ、正しいビット情報を受信でき、一致しない場合にはランダムな結果となります。データの送受信後、それぞれが送受信に使った偏光方向を照合すれば、方向が一致したビット情報を正しく受信した情報として暗号鍵に使えます。