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 時間的にも精神的にも余裕のある休日を利用して、超マニアックなオーディオの試聴比較実験を実施した。ホールの自然な残響音とデジタルリバーブによる残響音を比較する「アナログ vs. デジタル」の対決だ。ただ単純な比較では芸がない。そこで実際のホールで収録した音源を基に演算処理することで、空間をデジタル的に仮想化した上で比較した。つまり「デジタルの再現力」でどこまで自然残響に迫ることができるか、という検証だ。

 比較の方法についてご了解いただきたいことがある。今回の検証は、数値などで測定して、その差異を示せるものではなく、あくまでも印象論での比較だ。つまり、頼れるのは自身の耳だけ。比較結果は、筆者の主観全開で展開していることをお許しいただきたい。もちろん、読者の皆さんにも楽しんでいただけるよう、実験に使用した音源をコラムの最後に埋め込んでいるので、ご自分の耳で差異を確かめていただきたい。

実験の前提

 今回の実験は、残響時間が約1.8〜2秒程度の「かながわアートホール」で録音した、ピアニスト金益研二氏のオリジナル楽曲「Flowers on the Azure Sky」を用いた。かながわアートホールは神奈川フィルハーモニー管弦楽団のホームグラウンドでもあり、アコースティックな響きが美しい。

金益研二氏。東京芸術大学音楽学部作曲科を卒業し、南米系ワールドミュージックのテイストを織り交ぜたオリジナル楽曲が秀逸。今回使用した楽曲は『音の散歩〜星空〜』(Pure Sound Dog Records)に収録
金益研二氏。東京芸術大学音楽学部作曲科を卒業し、南米系ワールドミュージックのテイストを織り交ぜたオリジナル楽曲が秀逸。今回使用した楽曲は『音の散歩〜星空〜』(Pure Sound Dog Records)に収録
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 今回、192kHz/24ビットのPCMで収録した次の2つの音源を準備して比較した。

(1)ピアノの近接マイクで収録した音とホールの自然残響をミックスした音

(2)上記のピアノの近接マイクで収録した音とデジタルリバーブで生成した残響をミックスした音

 近接マイクは、以下の写真のようにピアノ弦の高音部と低音部を狙って蓋の中に差し込んで、残響音の混入を極力抑え、ほぼドライな音での収録を実現している。一方、ホールの自然残響は、音源(ピアノ)から7メートルほど離した高い位置に設置したステレオマイクで録音している。

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近接マイクは、AKG C414というコンデンサーマイクを使用。録音現場では定番のマイク。一方、テーブル上に設置した残響用のマイクは、Neumann USM 69 iを使用した。市場価格は約70万円!
近接マイクは、AKG C414というコンデンサーマイクを使用。録音現場では定番のマイク。一方、テーブル上に設置した残響用のマイクは、Neumann USM 69 iを使用した。市場価格は約70万円!
(筆者撮影、以下同じ)
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ホールの残響効果を仮想化する

 比較対象となるデジタルリバーブについて説明する。今回使用したのは、米Apple(アップル)の音楽制作ソフト「Logic Pro」と、それに付属しているリバーブプラグインである「Space Designer」を使用した。Space Designerには、ホールの残響を忠実に再現するための「Sampled IR」という機能が備わっている。

「Logic Pro」に付属している「Space Designer」に、実際のホールで収録したインパルスレスポンス(IR)音源を読み込んでホール残響をデジタルで再現した
「Logic Pro」に付属している「Space Designer」に、実際のホールで収録したインパルスレスポンス(IR)音源を読み込んでホール残響をデジタルで再現した
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 Sampled IRは、実際のホールで録音したインパルスレスポンス(IR)音源を基にして、畳み込み演算(コンボリューション)処理を適用することで、ホールの残響効果を仮想化できる機能だ。インパルスレスポンスというのは、波形で見ると短い振幅のパルス音のこと。今回は「パチン!」と1回だけ手をたたいた音を使用した。

インパルスレスポンス波形。左の鋭い山が手をたたいた際の実音で、42ミリ秒遅れて初期反射音が到達している
インパルスレスポンス波形。左の鋭い山が手をたたいた際の実音で、42ミリ秒遅れて初期反射音が到達している
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