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期待されながら製品化は失敗続きだったFMCW。Siフォトニクス版が続々と登場し、近い将来の市場席巻が見え始めた。有望企業には巨額の投資が相次ぎ、上場する例も出てきている。

メカレス×レーダーの測距技術
Siフォトニクスで1チップに

 MEMSミラー型LiDARでは要素技術の工夫と性能改善が進み、回転式をほぼ駆逐する勢いだ。ところが、まったく別のアプローチに基づく斬新なLiDARの製品化がすぐそこまで近づいてきた。それが、光ステアリングに機械的駆動を使わないメカレス式で、しかも測距技術としてはミリ波レーダーで用いられている「FMCW」、さらにはSiフォトニクスで回路の大部分をSiチップ化してしまう技術である(図9)。

FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)=周波数連続変調。これまでは主にレーダーで使われてきた測距方式。ドップラー効果を利用して相対速度も測定できる。
Siフォトニクス=Si基板またはSiO2層を埋め込んだSOI基板上に、微細な光回路を形成する技術。受光器はSiGe、導波路や光変調器はSiとSiO2の屈折率差を利用したパターニングによって形成する。発光器だけは外付けにすることが多い。
図9 指先に載る「LiDAR-on-a-Chip」が続々
図9 指先に載る「LiDAR-on-a-Chip」が続々
FMCW LiDARの送受信回路の主要部分をSiフォトニクス技術でICに集積化したメーカーとそのチップを示した。カッコ()内は写真の公開時期、または撮影時期。Voyant Photonicsは自らのチップを「LiDAR-on-a-Chip(LoC)」と呼ぶ。多くが数mm角の寸法だが、実際のLiDARにするには、レーザー光源、駆動用ICやレンズ、“雑音”(実際には干渉光)避けの筐体などが必要で、数cm角にはなる。(写真:SteraVisionは日経クロステック、それ以外は各社/大学)。
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トヨタやデンソーが出資

 この技術にも多数の企業が参戦しているが、中でも米Aeva Technologiesと米Aurora Innovationが目立つ。AevaはAppleで自動運転の研究開発に携わっていた技術者2人が独立して2017年に設立したベンチャーだ。

 同社は、2019年4月にドイツAudiの子会社である同AID-Autonomous Intelligent Drivingと、自動運転用実験車両「Audi e-tron」にAevaの「4D LiDAR」技術を使うことで提携した。2019年12月にはドイツVolkswagenグループの同Porsche Automobil HoldingがAevaに出資。さらに、2021年1月にはデンソーと技術提携した。デンソーは「デンソーとAevaの技術を融合することで、周波数連続変調(FMCW)方式の次世代LiDARを共同で開発し、実用化を目指す」(同社のニュースリリース)と発表している。その後Aevaは2021年3月、SPAC(特別買収目的会社)を介して米NASDAQに株式上場した。

 一方のAuroraは2019年5月にFMCW方式のLiDARを開発していた米Blackmoreを5.3億米ドルで買収。その後、2020年12月に米Uber Technologiesの自動運転部門であるAdvanced Technologies Group(ATG)、次いで2021年3月にはやはりFMCW方式のLiDAR技術「5D LiDAR」を開発中の米OURS Technologyをそれぞれ買収した注7)

注7)AuroraがFMCW方式のベンチャー2社を買収したのは、最初のBlackmoreの技術を高く評価したものの、BlackmoreがSiフォトニクス技術を持っておらず、そのままでは量産に向かなかったからだとする。2社めに買収したOURS TechnologyはSiフォトニクスで「LiDAR-on-a-Chip」を開発済みだ。

 UberのATGには2020年8月までにトヨタ自動車やデンソーが計15億米ドルを出資していたが、2021年2月にトヨタ、デンソーとAuroraは自動運転車の開発で協業していくことを確認。2021年末までにミニバンの「トヨタ・シエナ」にAuroraのLiDAR技術を搭載して走行実験を始める計画だ。

IntelのSiフォトニクスに日の目

 米Intelの子会社で、自動運転技術をけん引する1社であるイスラエルMobileyeもこのFMCW方式のLiDARに傾倒し始めた(図10)。同社は2021年1月の国際展示会「CES 2021」で同方式をSiフォトニクスで実装したLiDARモジュールを公開。2024~2025年の実用化を目指すとした。

図10 モジュールも数cmと超小型に
図10 モジュールも数cmと超小型に
SiフォトニクスによるLiDAR-on-a-Chipをモジュールにした例。(a)でモジュールを手にしているのは、Mobileye CEOのAmnon Shashua氏。(b)は2019年8月当時の開発品で、光源も波長915nm外付けレーザー光源(出力64.9mW)を用いていた。SteraVisionは2022年1月に、奥行きを2cmまで縮めた次世代品を発表する予定だ。(写真:SteraVisionは日経クロステック、それ以外は各社)
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 このSiフォトニクスは親会社のIntelが長年開発してきた技術。これまで高性能サーバーのトランシーバーなどニッチ市場でしか使われていなかったが、LiDARの実装技術として大きく開花する可能性が出てきた。

 Siフォトニクスで実装したFMCW方式のLiDAR用チップは多くが数mm角。これにレーザー光源や駆動用IC、レンズなどを入れてもモジュールの寸法は数cm角と非常に小型であることが多い。