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車載向けAIチップの開発では日本企業の健闘が目立つ。ルネサスは省電力化技術で競合他社を圧倒、デンソー小会社のNSITEXEは革新的アーキテクチャーの実用化に挑戦する。

 自動運転技術の要となるのが、多数のセンサーからの情報を処理して車両の制御の判断につなげるAIプロセッサーである。このAIプロセッサーの開発で、国内のチップメーカーが国際舞台で目立つ動きを見せている。ルネサス エレクトロニクス、デンソー小会社のNSITEXE、そしてソシオネクストだ。自動運転車が国内のチップメーカーの反攻のきっかけになる可能性が出てきた。

NVIDIAやTeslaに大差

 最近の自動運転用AIプロセッサーは演算性能に対する要求がうなぎ上りに高まっている。1年ほど前までは演算性能が100TOPSもあれば十分とみられていたが、最近では1000TOPS分のプロセッサーを実装した車両も発表された。その一方、単位消費電力に対する演算性能(省電力性能)は1T~2TOPS/Wの壁をなかなか越えられず、AIチップの消費電力が数百~1kWを超えてくる懸念が出てきていた(図33)。これでは、EVの電池容量の相当量をAIに費やしてしまい、航続距離に大きく影響しかねない。

図33 ルネサスが技術力(省電力性能)でTesla/SamsungやNVIDIAを圧倒
図33 ルネサスが技術力(省電力性能)でTesla/SamsungやNVIDIAを圧倒
国内のレベル2の自動運転車両でさえ、センサーやAI(人工知能)の消費電力の大きさに苦慮している(a)。レベル4を目指す競争では、1000TOPS超の声も出てきたが、省電力化も同時に進めることが必須になっている(b)。AIチップの省電力化競争ではルネサスエレクトロニクスが開発を牽引している。(写真:(a)は日経クロステック、図:(b)のチップ写真は各社、グラフは日経クロステック)
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 この省電力性能の壁を、量産を見越した製品として初めて大きく破ったのがルネサス エレクトロニクスだ。2021年2月に開かれた半導体回路の国際学会「2021 IEEE International Solid-State Circuits Conference(ISSCC 2021)」で13.8TOPS/Wという高い省電力性能のAIプロセッサーを発表した。少なくとも省電力性能で米NVIDIAやTeslaのチップに大きく差をつけた格好になる。実際の演算性能は60TOPSとやや小粒だが、複数枚を使うこともできる点で、使い勝手がよいともいえる。

 消費電力は約4Wで、25Wという空冷か水冷かという境となる消費電力を大きく下回った。空冷であれば、走行中に自然に取り入れられる空気を通せば済む。ところが、水冷が必要となると、車両ではそのための仕組みがやや大掛かりになる上に、水冷システムの駆動自体にも電力を費やしてしまう。

 画期的な省電力性能は、意外なほど基本に忠実な設計で実現した。具体的には、AI処理のコア回路であるCNN回路に近い場所にCNN専用のオンチップメモリーを配置したことだ(図34)。

CNN(Convolutional Neural Network)=畳み込みニューラルネットワーク。画像中の物体認識に優れたニューラルネットワーク。
図34 CNN専用のオンチップメモリーが奏功
図34 CNN専用のオンチップメモリーが奏功
ルネサスが開発した超低消費電力のプロセッサーのアーキテクチャーを示した(a、b)。CNN回路とメモリーを近づけるという基本を忠実に実行したのが、消費電力の大幅な圧縮につながった。(写真/図:ルネサスエレクトロニクス)
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 加えて、映像データを扱うビジョンプロセッサー回路でも同様にすぐ近くにメモリーを配置した。これで、データの移動、特にチップ外への移動が減り、大幅な低消費電力化につながったという。