全3730文字
PR

「遠隔監視型にAIは不要」

 ただし、BOLDLYやティアフォーと群馬大学の間には、自動運転用AI技術の利用に対して姿勢の違いがある。BOLDLYやティアフォーは、カメラやLiDARなどのセンサーを多数搭載し、それらを用いた物体認識などのためにAIを用いている。レベル3以上を目指す自動車メーカーの自動運転車では、走行制御の一部にAIを直接使っている例もあるようだ注3)

注3)レベル2までの車両であれば、クルマの運転制御自体はルールベースという例も多いが、レベル3以上の自動運転を目指す場合は、「車両の走行制御の一部もAIが直接担当する必要がある。カーブの曲がり方など、運転に熟練した人の技をルールベースで書くのは難しい」(ある自動車関連企業の技術者)からだ。結果として、自動運転向けに10年前の世界最速のスーパーコンピューターに匹敵する性能を備え、しかも非常に省電力のAIチップの開発競争が激しくなっている。

 一方、群馬大学の小木津氏は、時速20~30kmと低速の路線バスでしかも遠隔管制型であればそもそもAIは運転技術としては不適かつ不要だとする。

 「今の深層学習ベースのAIはなぜその選択をしたかについて説明できない。それでは社会的に受容されない。我々が開発しているバス車両はLiDARなどを実装しているが、障害物があるかどうかなどを検知するだけでAIではない。状況は遠隔で人間が判断する。車両制御やその判断材料にAIを使わないことで、車両に搭載するコンピューターはノートパソコン1台程度で済む。逆に、人間と同じ水準の状況判断をAIでしようとすると、コストが100倍は高くなるだろう。我々の車両は、危険があったら止まるだけ。他に技術的な選択肢があるわけでもないので、トロッコ問題のような難しい価値判断を迫られることもない」(小木津氏)という。

トロッコ問題=路面電車(トロリー)が線路を走っているときに、線路に分岐がありその先の一方に1人、もう一方に5人の人間がいる。ブレーキをかけても間に合わないことが明白で、分岐のどちらかを選ぶしか選択肢がない場合にどうするか、という思考実験。転じて、自動運転でも緊急時に取り得る選択肢がいずれも人的被害を生む場合にどちらを選ぶかを問う問題を指す。

トヨタは実は本気で開発中

 バスの運転手不足や免許返納後の移動をどうするかといった喫緊の社会課題への解決策として、遠隔監視型という選択には高い合理性があるといえる。ただし、世界中で進んでいる高度なAIベースの自律型自動運転車の開発競争とは方向性が大きく違い、中長期的な日本の技術開発力向上に不安が残る。

 トヨタ自動車の自動運転への取り組み姿勢も、一見安心材料にはならない。同社の姿勢で目立つのはMaaS(Mobility as a Service)やCASE(Connect、Autonomous/Automated、Shared、Electric)時代の次世代モビリティーをどうするかという、“不思議系”が多いからだ(図5)。

図5 トヨタは“2つの顔”を使い分け
図5 トヨタは“2つの顔”を使い分け
トヨタ自動車は2018年以降、コンセプトとしてはハンドルなどがないレベル4想定だが実際にはその機能は備えず、20km/時足らずの超低速の自動運転、あるいは車輪さえない車両を“次世代モビリティー”として積極的にアピールし続けている(a~d)。移動すること自体よりも、移動していないときの車両の新しい使い方を提案するのが狙いだ。例えば、(d)のSQUALでは内部をVR(仮想現実感)の映像空間にして、「空間配信サービス」(トヨタ自動車)を提供する。一方で、同社は、本格的な自動運転を目指した車両の公道での走行試験を日本を含む各地で非公開で繰り返しているもようだ(e)。(写真:(a、b)と(e)の車両はトヨタ自動車、(c、d)と(e)のLiDAR単品は日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 もっとも、トヨタ自動車が日本の公道の試走を含む自律型自動運転車の開発を非公開で進めていることも一部に知られている。なぜそのアピールをあまりしないのかは不透明だが、自動運転社会へ導くトンネルを両端、つまり一方はクルマの開発側、もう一方はサービスの開発側から掘り進めようとしているのは確かである。