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 クボタがデジタルトランスフォーメーション(DX)に挑んでいる。メンテナンスを効率化するxRや人工知能(AI)の活用、DXを支えるクラウド基盤の整備、スタートアップとの協業──。日本、そして世界の大地をITで耕す企業への変革を目指す、クボタの戦略を追う。

 スマートフォンを横向きにしてクボタ製の建設機械に向けると、画面には建機の輪郭を示す線画が映し出された。次いで線画の内側に、赤や黄色でエンジン部の部品がハイライトで表示された──。クボタが2020年12月に提供を始めた故障解析用の拡張現実(AR)アプリ「Kubota Diagnostics」だ。同社製建機のディーラーがスマホを使って簡単に故障の内容を把握できる。

クボタが米国ディーラー向けに提供しているARアプリ「Kubota Diagnostics」
クボタが米国ディーラー向けに提供しているARアプリ「Kubota Diagnostics」
写真提供(左、右上):クボタ
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 建機が故障した際、ディーラーは建機のディスプレーに表示されるエラーコードや不具合の症状を同アプリに入力。合致する故障の内容がスマホ画面に表示される。アプリをARモードに切り替えてスマホを建機に向けると、故障の発生した部品のありかを実機のカメラ映像と重ね合わせてハイライト表示する。AR機能には独AR専業スタートアップのビゾメトリーが開発した「VisionLib」を採用した。

 クボタにとって北米の建機事業は、2021~25年度の中期経営計画において「成長ドライバー」の筆頭に挙げ「大幅なシェア拡大を目指す」と明記するほど注力する事業領域だ。約56億円を投じてカンザス州に建設中の新工場が完成する2022年秋以降は、建機の主力機種を日本製から現地生産に切り替えて供給体制を拡充する見通しだ。

 そんな北米建機事業の強化に向けた課題がアフターサポートだ。全国に強固なディーラー網を抱える日本国内と異なり、米国でのクボタの存在感はまだ大きいとは言えず、ディーラーのエンジニアは必ずしもクボタの建機の構造について熟知しているとは限らない。建機を使いたい場面で動かなくなり、ディーラーに修理依頼が来るケースでは、すぐに故障原因を特定して直せなければクボタ製品への信頼に傷が付く恐れがある。

 アフターサポートの課題解決にARを活用できるのではないか──。そんな仮説を抱いてアプリ開発に挑んだのは、建機サービス部の梅林繁樹氏だ。2019年に市場調査で仮説検証したうえで、2020年2月に社内で開発にゴーサインが出た。アジャイル開発の経験が豊富なモンスター・ラボをベンダーに選定。同年5月に開発に着手し、半年あまり後の12月に提供開始するというスピード開発だ。当初は主力機種の比較的問い合わせ件数の多いエラーに絞って実装した。提供開始後も他機種への対応、解析可能なエラーの追加やARの認識精度向上といった改良を続けている。

 梅林氏はそれまで建機のディーラー向け講習などを担当しており、アプリ開発に携わった経験はなかった。IT部門のアドバイスを受けながらアジャイル開発に臨み、仮説検証や故障原因の切り分けに使うフローチャートの作成などをほぼ1人で担った。「以前の担当業務で技術者の困りごとは何となく分かっており、自分の強みをアプリ開発で生かせた」(梅林氏)。

 ディーラー網の迅速な故障解析を支援して建機のダウンタイムを短縮するだけでも提供価値は大きい。さらに梅林氏は「Kubota Diagnosticsの価値は情報にある」と話す。収集したデータを基に「参照されるエラーの傾向を地域別に分析したり、アプリ上で製品に関するアンケートを取って次期製品の開発につなげたりしたい」(同)とする。