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 突然の社長交代劇で揺れる東芝だが、研究開発の現場は活気にあふれている。これまで環境負荷軽減のためにコツコツと開発してきた要素技術に、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の追い風が吹いているからだ。まさに「脱炭素技術」である。

 同社の脱炭素技術の特徴はカバー範囲の広さにある。 [1]再生可能エネルギー発電から、 [2]二酸化炭素(CO2)の資源化技術、 [3]水の電気分解(水電解)、 [4]2次電池、 [5]省エネルギー(省エネ)まで、全方位の技術開発が進む。「研究開発の東芝」の面目躍如だ。

軽くて曲がる太陽電池

 [1]の再生可能エネルギー発電で光るのは、軽量で折り曲げられるフィルム型のペロブスカイト太陽電池だ(図1)。

図1 ペロブスカイト太陽電池
図1 ペロブスカイト太陽電池
軽量で折り曲げられるので、ビルの壁や耐震性の低い工場の屋上などにも設置できる。空き地の少ない都市部にメガソーラーを構築できる可能性を秘める。(出所:東芝)
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 ペロブスカイト太陽電池は、従来の結晶シリコン型太陽電池を設置できなかったビルの壁や曲面を描く屋根などへの設置も可能。結晶シリコン型並みの変換効率を実現すれば、「空き地の少ない都市部にもメガソーラーを構築して、原子力発電所10基以上と同等の電力を発電できる、つまり主力電源として使える可能性がある」(東芝研究開発センターナノ材料・フロンティア研究所トランスデューサ技術ラボラトリの都鳥顕司氏)。2025年の実用化を目標に開発中だ。

 ペロブスカイト太陽電池はシリコンの代わりに、低温塗布で作製できるペロブスカイトと呼ぶ結晶構造*1の材料を使って発電する(図2)。このペロブスカイト結晶の発電層膜は薄くても変換効率が高い特徴を持つ()。

*1 ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造
酸化物の灰チタン石(ペロブスカイト)と同じ結晶構造。結晶シリコンと同程度の高い電荷輸送能力を持つ。低温塗布で発電膜を作製しても、不純物が残ったり結晶性が悪くなったりせず、欠陥が少ないので、発電効率が高い。
図2 ペロブスカイト太陽電池の構造
図2 ペロブスカイト太陽電池の構造
シリコンの代わりにヨウ化鉛メチルアンモニウムを原料とする「ペロプスカイト結晶」を活性層に利用。(出所:東芝)
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表 ペロブスカイト太陽電池と結晶シリコン太陽電池
(東芝の資料を基に日経ものづくりが編集)
表 ペロブスカイト太陽電池と結晶シリコン太陽電池
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 ペロブスカイト結晶のセルは、原料となる溶液を基盤上に塗布して製造する。東芝はここでヨウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3)を採用。原料の溶液を乾燥させる際、加熱温度を100℃程度までに抑えられるので、作製に1500℃以上の高温を要するシリコンとは違い、基板にプラスチックフィルムを使える。そのため、薄くて折り曲げられるセル・モジュールを製造できる。

 折り曲げられる分、割れにくい。ひょうやあられが降ったり、強風で飛ばされた障害物が衝突したりしても割れない。破損防止のため表面に強化ガラスなどの保護材を貼る必要もない。そのため結晶シリコン太陽電池より軽量化でき、設置コストが抑えられる。

 変換効率の高さも優位性だ。東芝は、「大面積で高効率な結晶シリコンのプレミアムバージョン並みの変換効率を目指している」(都鳥氏)。同社が開発したペロブスカイト太陽電池のシングルセルの認証変換効率*2は21.6%(1.0 cm2)で、26.7%の結晶シリコン太陽電池の変換効率に迫る。

*2 認証変換効率
公認されている機関で測定し,面積が1cm2以上の太陽電池の変換効率。

 ペロブスカイトは結晶化するまでの時間が非常に短いので均一に膜を形成するのが難しく、大面積では変換効率が低下する課題があった。しかし、後述する製造方法の工夫によって東芝は18年8月、面積703cm2のフィルム型モジュールで11.7%という認証変換効率を達成した*3。大面積のフィルム型モジュールとしては、全世界でトップの数値だ(2021年4月時点)。同社は面積900cm2で15.0%を目標に技術開発を進めている。

*3 東芝社内での測定では14.1%を達成している。