三菱重工業は「脱炭素化技術」と「水素バリューチェーン構築」を2本柱に、「2050年カーボンニュートラル」に挑む。直近で市場価値があり、技術的にも現実的な解と見るのが火力発電所を脱炭素化する「水素ガスタービン」と、火力発電所以外の工場や商業施設などを脱炭素化する「二酸化炭素(CO2)回収プラント」だ。
いずれも既に商用レベルまで技術は確立済み。水素ガスタービンは具体的な商談が進んでおり、CO2回収プラントは海外への納入実績もある。さらなる技術開発で競争力を高める考えだ。
水素ガスタービン
2025年には「水素だけで発電」の実現も
三菱パワー(横浜市)は、水素を燃料とした火力発電用のガスタービンを開発している(図1、2)。18年には天然ガスに30%の水素を混合して燃焼させる「予混合燃焼」式のガスタービンを実用化(実圧燃焼試験を完了)。25年には水素だけを燃焼させる「水素専焼ガスタービン」の実用化を目指し、開発を進めている。
同社は、発電所で用いる出力10万kW級以上のガスタービン開発では、米General Electric(ゼネラル・エレクトリック、GE)やドイツSiemens(シーメンス)と競合する世界3強の1つだ。そんな同社は現在、水素やアンモニアなどを燃焼させて発電する「カーボンフリー発電システム」のラインアップを拡充(表)。特に注力しているのが水素ガスタービンの開発だ。
既に、天然ガスを使用するガスタービン・コンバインド・サイクル(GTCC)発電は実用化済み。GTCCとは、天然ガスをガスタービンで燃焼させて発電した上で、排熱で蒸気を作って蒸気タービンを回して二重に発電して効率を高める(図3)。天然ガスだけのとき、60Hz向けのM501JA形のガスタービンの場合、燃料エネルギーを電気に変換できる効率は約40%だが、GTCC なら約60%に引き上げられる。これに対して、CO2の排出量は石炭火力発電の半分以下だ。
一方の水素発電はCO2排出がゼロ。効率が高いとはいえCO2を排出するGTCCに比べると、カーボンニュートラルが主戦場となる今後は大きな市場を見込める。同社ターボマシナリー本部ガスタービン技術総括部技監・副総括部長(取材時、21年4月1日から三菱重工業エナジードメイン新エナジー事業部新エナジー部の技監・主幹技師)の谷村聡氏は、「現在の天然ガスGTCCと同規模の5000億円程度か、それ以上の受注規模を見込んでいる」と話す。
「将来的に風力や太陽光などの再生可能エネルギー(のプラント)は偏在する上に変動電源で扱いにくい。再エネが将来的に普及してもその直接利用に限界がある以上、貯蔵と輸送ができる水素のニーズは高まるだろうと予想される」(同氏)。
大がかりな改修をせずに既存の天然ガスタービン設備を流用できるのも、水素ガスタービンの利点だ。燃料が天然ガスから水素ガスに変わっても高圧の燃焼ガスでタービンを回して発電するという原理は同じだ。
もちろん燃焼器や配管など燃焼に関わる部品の交換は必要だが、「既存の天然ガスタービンの燃焼器を水素ガスタービン用に交換するだけ。水素ガスタービンへの転換は発電設備の大規模な改修が不要で低コスト」(同氏)。メンテナンスのために燃焼器はもともと分離できる設計なので、交換自体は難しくない。「燃焼器の交換による水素ガスタービンへの転換」は現実的な解なのだ。