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 経済産業省の「2025年の崖」のキーワードの1つとして「2025年のSAPの崖」への対応に注目が集まっている。いわゆる「SAP S/4HANAへのアップグレード」についてである。本稿では独SAPのERP(統合基幹業務パッケージ)を導入している企業が最新版の「S/4HANA」へのアップグレードを遂行するため、どのように対応すべきかについて解説する。

 筆者は、これまでに事業会社や外資系コンサルティングファームにおいて、経理業務の適正化や原価計算再構築、基幹システム導入などのITコンサルティングに従事してきた。日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)全体でも、日本の消費財メーカーや化学メーカー、商社などを対象に幅広くSAPに関わる大型プロジェクトを手がけている。

 昨今は、次期基幹システムにS/4HANAを採用しようと考える企業のユーザー部門やIT部門から「どのように対応すべきか」「他社はどうしているのか」といった問い合わせを頻繁に受けている。

 経産省は2018年に発表したいわゆる「DXレポート」で、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する必要性を訴えている。既存システムの老朽化などを放置すると、2025年以降に大きく企業競争力が低下することを予言して、「2025年の崖」と呼んでいる。

2025年に迫る保守期限

 これに関連して、SAPのERPについても、ERP 6.0のエンハンスメントパッケージ(EHP)6未満の保守期限は2025年末で終了する。現行版がERP 6.0でエンハンスメントパッケージが「0」から「5」までの場合、SAPの保守が打ち切られるため、対応が必要である。この問題を、ここでは「SAPの崖」と呼ぶ。

 日本には、基幹システムでSAP製品を利用する企業が約2000社存在するとされる。企業規模が大きくなるにつれてSAP製品の採用率も高くなる傾向がある。また、規模が大きい企業は機能拡張(アドオン)を使っている場合が多い。このアドオンについての稼働確認テストが必要になるため、アドオンは新しいエンハンスメントパッケージを適用するうえでの阻害要因にもなっている。

 実は、エンハンスメントパッケージが新しい「6」から「8」までの場合は、保守期限が2027年末までに延長されている。ただし、期限延長の恩恵がない企業も少なくないはずだ。