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 独SAPのERP(統合基幹業務パッケージ)を導入している企業が最新版の「S/4HANA」へのアップグレードを遂行するため、どのように対応すべきか。今回は「構想策定」の準備について解説する。

 S/4HANA移行のフェーズ2で、概算最小コスト(Minimum Cost)や現行業務・システムの主要課題、現状の課題と検討すべき事項などを把握してきた。その後、「構想策定」につなげていく。

S/4HANA移行の流れ
S/4HANA移行の流れ
(出所:日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ)
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 そもそも構想策定とは何か。構想策定とは、S/4HANA開発プロジェクトの実行計画を意思決定する工程である。取り組みの目的、対象範囲やIT基盤、実現したい業務とその作業期間、概算予算などを詳細化する。これらの計画を取りまとめ、経営陣の合意を得たうえで、要件定義以降のRFP(提案依頼書)を作成する。

 まず、構想策定で検討する各要素について事前準備をする。具体的には、(1)システムの対象範囲、(2)取り扱う課題のメインテーマ選定、(3)開発開始に向けた社内の合意形成、(4)プロジェクトメンバー選定、などについて事前準備をする。

対応すべき課題とプロジェクトのゴール

 第2回で解説した現状調査によって把握した課題に対し、対応策をテーマごとに分類する。「予算策定期間の短縮」「決算期間の短縮」「債権管理の標準化」といったそれぞれのテーマに対して、どの課題を重要課題とするか、メインテーマとして対応を進めるかを検討する。検討時には、課題の緊急度や、課題解消時の想定効果などを考慮し、優先順位(重要度)を設定し、プロジェクトでの実行対象を決定する。

 決定した実行対象のテーマに関して、テーマごとに検討チームを編成する必要がある。「予算策定期間の短縮」であれば、営業担当者や製造担当者、原価計算担当者など複数の担当者でチームを組むことになる。

順序立てて進めるべきケースも

 課題を多く抱える企業では、全てのテーマを一度に検討するのではなく、段階的に実施するアプローチも有効だ。この場合、テーマを実行する順序が意味を持つことがある。

 例えば、「製造原価が正確に算出されていないことが原因で製品別の損益が把握できていない」、あるいは「製造原価が正確でないためにどの製品がもうかっているか分からず営業戦略が立てられない」という課題があったとする。これでは全てのテーマを一挙に進められない。

 この場合は、製造原価計算の仕組みの見直し→システムの導入→製品別損益把握の導入→顧客別損益把握の導入→営業戦略の見直し、といったように、順序を組み立てて対処する必要がある。