全2119文字
PR

 中国、そして日米欧において実証が進む量子暗号通信(QKD: Quantum Key Distribution)。日本勢は装置の性能や国際標準化などで強みを持つ。官民連携で社会実装を広げていけば、世界をリードできる可能性がある。

 情報通信研究機構(NICT)は日本の量子暗号通信の研究開発の総本山だ。2001年にNICT内に量子暗号通信の研究グループが正式に立ち上がり、2010年には東京100km圏内の量子暗号通信のテストベッド「Tokyo QKD Network」の稼働を開始した。このテストベッドで技術を磨いた東芝やNECが、量子暗号通信で世界に打って出ている。

 さらにNICTは2021年2月、内閣府が日本全国8カ所の大学や研究機関に指定した「量子技術イノベーション拠点」の1つとなった。特に、量子暗号通信などの国内の中心拠点である「量子セキュリティー拠点」として本格的に動き始めた。

 そんなNICTが現在、量子暗号通信の普及に向けて注力しているのが「量子セキュアクラウド」と呼ぶ技術だ。

NICTが進める「量子セキュアクラウド」の基本コンセプト
NICTが進める「量子セキュアクラウド」の基本コンセプト
量子暗号通信に加えて、データを分割保存し、一部が漏れても情報を守れる秘密分散の仕組みも組み合わせる。(出所:NICTの資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

原本データを分割保存

 「病院の電子カルテやゲノム解析データは、漏えいすると子供や孫の世代にわたって個人情報が脅かされる重要データ。こうしたデータを長期間にわたって安全に保管・運用するための技術が量子セキュアクラウド」とNICT 未来ICT研究所 主管研究員 NICTフェローの佐々木雅英氏は説明する。

 具体的には量子暗号通信による鍵共有ネットワークを広域に拡大してプラットフォーム化する。さらに暗号鍵を使ってやり取りする実際の重要データを、秘密分散と呼ばれる手法を用いて安全に保管する形を組み合わせる。

 秘密分散は、原本となる重要データを無意味化された複数のデータに分割する。分割された一部のデータが漏えいしても、原本データを復元できない仕組みだ。

 震災などで一部のデータが破損したとしても、残った分割データから原本を復元できる。「現在、東京圏100km圏内など日本の2カ所で量子セキュアクラウドのユーザー実証を進めている」と佐々木氏は話す。

 NICTは運用ノウハウを磨いた量子セキュアクラウドを国際標準化し、日本の技術を世界へと広げていく起爆剤にしていく考えを示す。「2022年には量子セキュアクラウドの一通りの検証を終えて全体のアーキテクチャーを完成させる。2022年にこの技術を国際標準化したい」と佐々木氏は意気込む。

 量子暗号通信を低コストで広げるためには、専用システムではなく、サービスとして提供するプラットフォーム化が欠かせない。NICTを中心とした日本勢は、量子暗号通信の本格的な競争が始まる2022年ごろに、量子セキュアクラウドという新たな一手を打つことで、世界攻略の切り札にしたい考えだ。

26年にも量子暗号通信衛星打ち上げへ

 佐々木氏はさらにその先に、日本勢が量子暗号通信で主導権を握るための将来戦略も明かす。

NICTは量子暗号通信網を段階的に拡大へ
NICTは量子暗号通信網を段階的に拡大へ
情報通信研究機構(NICT)は、22年に関東圏、25年に都市間、30年には日本全土に量子暗号通信網を整備する計画だ。(出所:NICTの資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 「2025年には東京や大阪など都市間を結ぶ量子暗号通信網の構築に着手する。2026年から27年にかけて、開発を進める量子暗号通信衛星を打ち上げ、2030年ごろには地上と衛星を統合した日本全土の量子暗号通信網を整備したい」(佐々木氏)。

 そして2035年以降は、日本勢の世界市場への進出と合わせて「主要な同盟国と宇宙を介して量子暗号通信のグローバルネットワーク化を図りたい」(同氏)とする。