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行政がデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みを急ぐなか、霞が関や地方自治体でデジタル人材の争奪戦が始まっている。新規採用や民間登用が活発になる一方、既にデジタル人材として活躍するプロパー職員もいる。本特集はそうした霞が関や自治体で活躍するプロパーのデジタル人材に焦点を当て、そのDXの成果とデジタル人材に至った背景に迫る。

 「農林水産省の(DX)チームがみんなデジタル庁へ行って全政府でやってしまったらいいのではないか」。河野太郎規制改革相がこう発言するほど、農水省のDXが熱い注目を集めている。

 その農水省DXを引っ張るデジタル人材の要が農水省大臣官房デジタル戦略グループ情報化推進係長の畠山暖央氏である。33歳の畠山氏は、農水省が約3000種ある全行政手続きをオンライン化する「農林水産省共通申請サービス(eMAFF、イーマフ)」の開発に白紙状態だった検討当初から携わってきた。

畠山 暖央(はたけやま・はるちか)氏  農林水産省大臣官房デジタル戦略グループ情報化推進係長
畠山 暖央(はたけやま・はるちか)氏 農林水産省大臣官房デジタル戦略グループ情報化推進係長
1987年生まれ。幼稚園児の頃から親のPC-9801を使い、中学生になるとExcel VBA(Visual Basic for Applications)を使って計算ドリルをサボるようになる。東京大学農学部在学中にドラッグストアでアルバイトし、パソコンを使って出店用不動産やPOSデータを分析する。2014年に農林水産省入省。生産局総務課などを経て、2016年復興庁に出向し、被災事業者の二重ローン対策の法令改正業務やクラウドファンディング支援事業などを手掛ける。2018年から現職。33歳。(写真:陶山 勉)
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 eMAFFは2020年4月からの先行稼働を経て、2021年4月から本格稼働した。2022年度までに全行政手続きをオンライン化し、2025年度には手続きの6割をオンライン化したい考えである。

 畠山氏は現在、eMAFFをはじめ同時並行で進む複数のDXプロジェクトを統括するPJMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)に参画している。職員や開発ベンダーといったステークホルダーをまとめ上げてプロジェクトを前進させるため、情報処理技術者試験の「プロジェクトマネージャ試験」に合格するなどして、目下プロジェクトマネジメントに注力中だ。

 「ベンダーの皆さん、当方がお相手申す」――。ちゃめっ気のなかにも本気をのぞかせる畠山氏は実はそもそもシステム開発の素人だった。

システム開発経験ゼロから担当に抜てき

 畠山氏は東京大学農学部を卒業後、経済職で国家公務員試験を受けて2014年に農水省に入省した。生産局の総務課や食肉鶏卵課、畜産企画課を経て2016年に復興庁へ出向。ここまでは通常の事務官としてのキャリアである。

 転機となったのが入省4年目の2018年7月。復興庁から農水省に戻り、新設された現職に着任すると、自身が「農水省の全手続きを汎用的に受け付ける電子申請システム」をつくる担当になったと知った。

 それまでのキャリアでシステム開発の経験は皆無。そもそも行政手続きを担当する原課や原班での業務経験もない。システム開発にもシステム化対象の業務にも詳しくなかったわけだ。