茨城県つくば市の全職員1942人(2021年4月現在)の中で唯一、3カ所もの部署を兼務している職員がいる。兼務が多すぎてシステムを使った通常の人事評価ができず、自ら紙を持って各部署の管理職に「お願いします」と言って回っているという。「デジタル施策を進めている立場なのに」と語って笑いを誘う、政策イノベーション部情報政策課の家中賢作企画推進係長こそがその人である。
家中係長が兼務しているのは「科学技術振興課スマートシティ戦略室」や「企画経営課統計・データ利活用推進室」の主任主査。実は書類上の兼務部署は出先機関を含めて全部で4つある。つくば市が力を入れるデジタル施策の担当部署が複数に及んで、兼務が増えてしまったという。
つくば市は全国の自治体の中でもDXの旗手として知られる。そのつくば市がDXの根幹として取り組んでいるのが「データ利活用」の人事研修である。2018年4月から全職員を対象に実施しており、仕掛け人が家中係長である。
この人事研修は、地方公務員法に基づいて主事や主査、管理職といった職層ごとに、必ずデータ活用の研修を受ける仕組みにしている点において、全国でも珍しい。「10年もすると全職員への研修が一巡する。2030年までに必ず1回は研修を受ける仕組みとした」(家中係長)。
なぜ自治体職員がデータ活用を学ぶ必要があるのか。理由は自治体が直面する課題を解決するためだ。地方公務員の総数は2020年4月時点で約276万人と、1994年のピークに比べて人数で約52万人、率で16%減った。限られた職員や財源で、行政サービスの水準を維持しなければならない。
鍵となるのが、デジタル技術とデータの活用である。これまで紙の資料を前提にしていた事務フローをデジタル化することで職員の事務負担を軽減したり、データを基に効果的な政策を立案したりできるようになるからだ。
ただし政策の根拠とするにはデータ分析の精度を高めることは不可欠である。精度を高めるには多くの場合、データが豊富にあるほうがよいとされる。
この点、自治体は税や福祉、建築・土木といった各部署が事務処理に必要な範囲で様々なデータを扱っているため問題がないようにみえる。だが、実際は自治体が既存の事務処理以外でデータを活用する例は少なかった。部署を超えてデータを共有する例もほとんどなかった。守秘義務を定めた法令や個人情報保護条例がある一方で、法令上可能なはずの目的外利用の枠組みがあまり知られてこなかったためだ。
データを活用する環境づくりへ
自治体が行政サービスのDXを進めるには、第一にデータをフル活用できる仕組みを組織に根付かせる必要がある。そもそも多くの自治体職員は他部署がどんなデータを管理しているかも知らない場合が多い。職員が自らデータを分析できなくても、データを活用できる環境づくりが求められる。