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 「これから学校で本格的に端末の活用が始まると、無線LANに接続済みのマークは表示されるものの通信ができないケースが続出する可能性がある」。学校のICT環境に詳しいiOSコンソーシアムの野本竜哉代表理事はこう指摘する。

 GIGAスクール構想によって2021年4月からほぼ全国の小中学生に1人1台の端末が整備された。ただ、これはあくまでもICTを活用した学習環境整備のスタート地点に立っただけ。本格活用に向けてはさまざまな課題が残されている。その1つがクラウドの利用に不可欠なネットワーク環境だ。

「1人1台」は当初計画の想定外

 文部科学省は2018年度からの教育のICT化に向けた環境整備5か年計画として小中学校3クラスに1クラス分の端末や外部ネットワークを整備することを見込んで地方財政措置を講じた。しかし「計画を掲げた当時と1人1台端末を使うGIGAスクール構想が始まった現在では、学校で使う端末の台数が圧倒的に違う 」。2020年の全国一斉臨時休校時に学校のオンライン配信などをサポートした柏市教育委員会の西田光昭教育研究専門アドバイザーはこう説明する。

 GIGAスクール構想における予算措置は生徒に配布する端末と校内LANの整備にかかる費用などが対象で、外部ネットワークの整備は対象外。つまり、学校は「小中学校3クラスに1クラス分の端末」、GIGAスクール構想が掲げる「1人1台」の3分の1の端末台数を想定した外部ネットワークをこれまで整備してきたことになる。

 学校が外部ネットワークを整備するための予算は、1人1台環境以前の計画に基づいた予算措置で賄われている。GIGAスクール構想によって学校で扱う端末の数が当初想定の3倍に増え、通信量の増加に対応できないネットワーク構成の自治体が少なくない。

 現状、学校の外部ネットワークはどうなっているのか。前出の野本代表理事は「校内LANから先の学校から外部ネットワークにつなぐ回線は、自治体の教育委員会のサーバーにまとめる『センター集約型』になっている自治体が多い」と説明する。

 センター集約型ネットワークの利点は、セキュリティー対策が容易であることだ。学校にネットワーク機器を納入するシスコシステムズの田村信吾公共事業事業推進本部部長はセンター集約型のメリットを「教育委員会のサーバーにファイアウオールなどのセキュリティー対策をしておけば、学校ごとに対策をする手間が省ける」と話す。

 自治体が抱える学校の数が多ければ多いほど、センター集約型ネットワークによってセキュリティー対策の手間を省ける利点は大きくなる。実際に田村部長は「大規模な自治体ほどセンター集約型と呼ばれるネットワーク構成を採用するケースが多い」と指摘する。

 一方で田村部長はセンター集約型のネットワークの課題を「GIGAスクール構想によってものすごい数のパソコンがデータセンター経由でネットワークにつながる。そうなるとプロキシが過負荷になったり、インターネットにつながるネットワークの帯域を圧迫したりしてしまう」と指摘する。iOSコンソーシアムの野本代表理事は「教育委員会のサーバーに集約してからインターネットにつながる回線は1本しか整備していないケースも多く、ネットワークの帯域が圧迫される可能性がある」と指摘する。

 通信速度が低下すると、授業で使うソフトウエアなどへの接続に時間がかかったり、そもそもサーバーに接続できなかったりする。「これでは最新のタブレットを配備したり立派な校内LANを整備したりしても授業に支障をきたす恐れがある」(田村部長) 。

学習系と校務系のネットワークを分け、帯域の圧迫を防ぐ

 いくら校内LANを整備しても データセンターがボトルネックになってしまっては通信速度が下がってしまう。この点を考慮したネットワークを構築しているのが千葉県の柏市だ。

柏市が整備したネットワークの概要
柏市が整備したネットワークの概要
(出所:柏市教育委員会)
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 柏市はセンター集約型の構成を残しつつ、ネットワークを学習系と校務系に分けてトラフィックがデータセンターに集中しないような構成を採る。柏市教育委員会の西田教育研究専門アドバイザーは、同市のネットワーク構成 について「学校で使うネットワークを生徒の成績や出席などを管理する校務用と授業で使う学習用に分けた。学習用のネットワークは各学校から閉域網を通ってデータセンターに集約し、SINETに接続する構成だ」と説明する。