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 動画配信サービス「U-NEXT」を展開するU-NEXTは2021年3月30日、米ワーナーメディアと独占パートナーシップ契約をSVODサービスにおいて締結したと発表した。U-NEXTは今回の契約締結により、ワーナーメディア傘下のプレミアムチャンネル「HBO」とワーナーメディアが提供する動画配信サービス「HBO Max」のテレビドラマシリーズやドキュメンタリーなどの新作を含む作品について、SVODサービスにおける日本国内での独占配信が可能になった。

 「U-NEXT」は、グローバルサービスでもテレビ局系サービスでもない独立系サービスに分類される。月額料金は2189円(税込み)で、オンライン上で21万本以上の動画と100誌以上の雑誌を見放題・読み放題で提供する。調査会社のGEM Partnersによると、国内のSVODサービスにおける見放題作品数は「U-NEXT」が第1位となっている。ウインドウ展開の都合上、まだSVODサービスで提供できない新作の映画やドラマを含む作品(2万本以上)は都度課金型(TVOD)で配信する。このほかに漫画などの電子書籍やコンサートなどのライブコンテンツも都度課金型で提供しており、月額料金にはこれらのコンテンツの購入に利用できる1200円分のポイントも含まれる。2021年2月末時点の有料会員数は217万9000件で、前年同期に比べて54万5000件増となった。

 U-NEXTの代表取締役社長を務める堤天心氏に、「U-NEXT」の現状と今後の展開について聞いた。

(聞き手は本誌編集長、長谷川博)

U-NEXT 代表取締役社長の堤天心氏
U-NEXT 代表取締役社長の堤天心氏
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加入件数の増加傾向が続いている現状に対する見方は。

 市場全体の捉え方でいうと、日本におけるエンターテインメントコンテンツの楽しみ方のデジタルシフトが急速に進んでいる。これまで日本ではDVDなどのパッケージメディアが強く、多くの先進国に比べて動画配信サービスの浸透率が低かったが、2年ほど前からデジタルシフトに勢いが出てきた。巣ごもり需要が発生した2020年に一気にブーストし、動画配信サービスでコンテンツを楽しむのが当たり前になってきた。

 そうした中で「U-NEXT」が評価された理由としては、コンテンツの品ぞろえの豊富さが挙げられる。巣ごもりによって、例えばこれまで月に1本か2本の映画を見ていた人が、3本以上の作品を見るようになった。特に巣ごもりの時期は、別の動画配信サービスの加入者も含めて、もっと様々な作品が見たいと考えた方が「U-NEXT」に加入してくれたと認識している。他の動画配信サービスだと物足りない、その物足りなさを埋めるのが「U-NEXT」ということで、2020年は我々のサービスと市場のニーズが一致したと考えている。

切れ目なく多くの人の関心を引く作品を確保できるようにするために重要視していることは。

 海外の人気作を確保できるようにするには、海外のプロダクションに「日本におけるディストリビューションパートナーならU-NEXT」と思われるようにプレゼンスを高めていくことが非常に重要になる。

 海外のプロダクションが作品をグローバルに展開したいと考えた時、2つの選択肢がある。Netflixのようなグローバルにサービスを展開するOTT事業者を通じて展開するというのが1つ。もう1つは、世界をいくつかの地域に分けて、その地域ごとにパートナーを作ることだ。

 今回、ワーナーメディアと独占パートナーシップ契約を締結したが、同社から一定の評価を得た結果と思っている。グローバルなOTT事業者との対比で、日本でのローカルナンバーワンとして評価される存在にならないと、海外コンテンツ市場においては脱落するリスクがあると認識している。

 海外のプロダクションは、グローバルなOTT事業者だけに全てのコンテンツを預けることには一定のリスクを感じるはずだ。グローバルなOTT事業者のみに依存することはないと予測している。

U-NEXTのオリジナルコンテンツの制作についての考え方は。

 オリジナルコンテンツを制作したいという気持ちはあるが、超えるべき課題がある。私は日本でオリジナルストーリーの制作ノウハウを持っているのは、出版社およびそこに作品を提供している小説や漫画などの作家と考えている。日本はどちらかというと原作を映像化することが多いが、出版社や作家の作品を映像化できるかは、当事者がどういう考えを持っているかに依存する。ローカルでオリジナルコンテンツを作るには様々な調整が必要になる。

 当社としては、オリジナルストーリーを制作することができる作家に作品を作ってもらうのであれば、まずは書籍というフォーマットで開発をお願いして、そこから良い作品が出てきたら映像化を図るのが正しいアプローチと考えている。そこで実績のある作家にオリジナル小説の執筆を依頼し、電子書籍として「U-NEXT」で配信するということをトライアル的に実施している。リアルな書籍にすることも行っており、2021年3月31日には第3弾となるU-NEXTオリジナル書籍の書店での販売を開始した。優良な作品が出てくれば、映像化も考えていきたい。

2021年3月30日の戦略発表会で、動画と電子書籍、音楽という複数のジャンルのコンテンツを1つのサービスで楽しめる体験を提供する「オールインワン・エンターテイメント戦略」を推進すると発表した。

 例えば「ONE PIECE」といった人気作品を1つのサービスの中で映像、電子書籍、音楽というフォーマットを越えて楽しめるようにするというのがコンセプトだ。

 現在、当社では「U-NEXT」で音楽の聴き放題サービスを提供することを検討している。これを実現できれば、動画の見放題と音楽の聴き放題を1つのサービスで提供できるようになる。当社が毎月、有料会員に配布するポイントで音楽の聴き放題サービスの対価を決済できるようにすれば、追加料金もかからない。当社の月額料金は2189円で人によっては高いという見方もあるかもしれないが、この金額で動画と音楽を定額で楽しめるということになれば、月額料金に対する印象も少し変わるのではないか。

 映像を見るシーン、音楽を聴くシーン、電子書籍を読むシーンは異なるので、可処分時間を食い合うことはないという仮説を立てている。3つのジャンルのコンテンツを1つのサービスに統合すると、アプリの起動率は飛躍的に上がる。ユーザーのエンゲージメントも上がり、加入後の継続率も高くなる。「オールインワン・エンターテイメント」の世界観でこれを実現したい。

 電子書籍やサブスクリプション型の音楽サービスでは、コンテンツのラインアップでの差異化が難しい。プロダクション側のウインドウ展開の都合で、配信開始が他の動画配信サービスと同じ時期になる新作映画についても同じことがいえる。一方、ユーザー側からすると、これらのコンテンツも当然利用したい。当社としては、動画の見放題サービスで、HBOの作品など「U-NEXT」でしか視聴できないコンテンツを提供し、他の動画配信サービスとの差異化を図る。その上で、音楽や電子書籍も楽しめるようにすれば、他のサービスでもラインアップされているコンテンツであっても、「U-NEXT」で利用してもらえると考えている。

「U-NEXT」の月額料金は2189円だが、例えばもう少し低額のサービスを商品メニューに追加するといった考えはあるか。

 そういう考えはない。月額料金の金額を見て、高いから選択肢から外す、というユーザーがいることは認識している。例えば動画の見放題サービスだけに絞って月額料金を引き下げるといったことをすれば市場にインパクトを与えられるかもしれないが、それを行うとグローバルなOTT事業者と完全に同じ市場で戦うことになる。競争戦略の観点から、慎重に議論をする必要がある。ユーザー目線と、ビジネス上でサバイブできるポジションを維持するという2つの視点から、今後どうすべきかを考えているところだ。

 一方で、電気やガス、通信といった他のサービスとセットにした商品を組成して、「U-NEXT」を事実上割安に提供するといったことは既に行っている。例えば2021年2月には関西電力と共同で、「U-NEXT」と電気およびガスを組み合わせた新たな料金メニューの提供を開始した。

インフラサービスとのバンドルであれば長期契約してもらいやすくなるから、それを折り込んだ金額にするということか。

 その通りだ。他社と共同で提供する商品の料金メニューについては柔軟に判断していく。

今後の会員獲得の戦略は。

 「オールインワン・エンターテイメント戦略」の下で動画、電子書籍、音楽のコンテンツを提供し、まずはエンターテインメントに一定のお金を使う層を新規会員として取り込むことを目指す。その後、現行会員を基盤として、もう少しライトな層へのアプローチを進めていきたい。