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 TVerは2021年6月に開催した広告戦略説明会「TVer Biz Conference 2021」で、民放公式テレビポータル「TVer」の現状を報告した。2021年3月時点で月間再生数は1億8000万回を超え、ユーザー数は1月に1697万MUB(Monthly Unique Browsers)となった。

 TVerはユーザー数増加の要因として、「コンテンツの大幅拡充」「対応デバイス拡充」「オリジナル特集企画」の3点を挙げた。このうちコンテンツの大幅拡充については「レギュラーコンテンツが約300番組から2021年4月には約350番組に増えた」「ローカル局発のコンテンツも拡充した」とした。今後の注力領域として、「同時配信始動を見据えたUIとUXのフルリニューアル」「五輪を中心としたスポーツライブ配信拡充」などを進める。

 代表取締役社長の龍宝正峰氏と取締役CIOの蜷川新治郎氏は本誌の取材に応じ、同社の事業展開の現状や今後について述べた。インタビューを前編と後編に分け、2号にわたり掲載する。

(聞き手は本誌編集長、長谷川博)

取締役CIOの蜷川新治郎氏(左)と代表取締役社長の龍宝正峰氏
取締役CIOの蜷川新治郎氏(左)と代表取締役社長の龍宝正峰氏
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「TVer」の配信コンテンツ拡充を実現できた理由をどう分析しているか。

龍宝 2020年夏に在京の民放キー局5社が同率でTVerの筆頭株主になり本格的に「TVer」を拡張する体制に移行したことが1つのきっかけになったとみている。民放キー局5社が「TVer」で本格的に放送コンテンツを出していこうという方向性を打ち出したことにより、ビジネスの機会を得られるかどうかの状況を把握したいと考える地方局もローカルコンテンツを配信するという状況になっているのではないか。

蜷川 2020年は新型コロナ感染拡大に伴う巣ごもり需要もあり、動画配信サービスに対するニーズの高さが多くの人の知るところになった。インターネット上で展開可能なコンテンツは積極的に出していこうという雰囲気が広がってきたと感じている。

2020年10月から3カ月間、日本テレビ放送網など3社が「TVer」で地上放送の同時配信の実験が行ったが、同時配信サービスに対する考え方は。

蜷川 同時配信では、放送とリアルタイムに連携して、番組表に沿って全国ネット番組だけでなく各局のローカル番組も提供しなければならない。CM配信のタイミングなどのデータもリアルタイムで取得する必要がある。127社の民放テレビ局の同時配信を行うとなると、様々なバリエーションのオペレーションに対応する必要があり、簡単ではない。同時配信の許諾を得られなかった番組を他のコンテンツに差し替えるには、代替コンテンツを配信する2系統目の回線が必要になるが、それを持っていない放送局が存在するという問題もある。様々な調整が必要だ。

龍宝 各局の放送と連携するためのシステム面や設備面の整備も課題となる。例えば民放局のマスター設備の種類は統一されておらず、複数の機種と連携を行う必要がある。系列でマスター設備を統一する動きも出ているが、各局の設備更新の時期に合わせて行うため、徐々に進んでいるのが現状だ。

 こうした課題はあるが、民放局から「TVerで同時配信を本格的に開始したい」という要望が出る事態に備えて、システムと運用の両面で対応できるようにしなければならない。準備を進めて、しっかりと間に合わせたい。

「TVer Biz Conference 2021」では今後の注力領域の1つとして、「同時配信始動を見据えたUIとUXのフルリニューアル」を掲げた。

蜷川 UIとUXの見直しでは、ユーザーが自らの興味・関心に合うコンテンツと出会いやすくすることが課題の1つとなる。現在、「TVer」ではコンテンツを視聴ランキング順に表示するなどの取り組みを行っているが、出会いやすさをさらに高めたい。例えば各コンテンツが世の中にどの程度受け入れられているかを示す人気度を表示するということが考えられる。ユーザーが様々な切り口からコンテンツを選択できるようにすることを第一に考えて、UI刷新に向けた検討を進める。

2021年5月に「TVer」を電子番組表(EPG)「Gガイド」のテレビ向けサービスと連携させ、この連携機能に対応する船井電機製のAndroid搭載4Kテレビを用いて、過去の番組表に表示されるTVerアイコンからそのコンテンツを視聴できるようにした。

龍宝 テレビ画面の取り合いという視点から、当社の今回の取り組みを気にする放送局もあるかもしれない。しかしコネクテッドTVは、「Netflix」や「Amazonプライム・ビデオ」といった有料サービスだけでなく、「YouTube」にも対応している。こうした状況の中で、「TVer」だけが手をこまぬいているわけにはいかないだろう。

蜷川 センシティブな問題だが、当社としてはGガイドとの連携を今後も推進していきたい。最近は、目当てのテレビ番組を見逃したことにすら気付かないという人が珍しくない。オンデマンド型の動画配信サービスでは、番組が認知されないと絶対に視聴されない。現在、放送におけるTVerの告知は番組の終了後に「もう一度見たい方はTVerで」というような形で行われるが、いずれは放送前の段階から「放送は○日×時から、放送終了後はTVerで視聴可能」などと告知されるようになるのではないか。

龍宝 EPGで過去の番組表を出して、そこにTVerへの動線を作るということは、以前は考えられなかった。それが実現できたということは、放送業界の状況も変わりつつあるということだろう。

東京オリンピックの期間中は、「TVer」で競技のライブ中継を行う。

龍宝 民放オリンピック公式動画サイト「gorin.jp」と連携し、民放各局で放送する全競技のライブ配信を行う予定だ。東京オリンピックをきっかけに「TVer」を初めて利用してくれた層に利用を継続してもらうことが当社の課題となる。2022年2月には北京で冬季五輪があるので、そこにつなげたい。

蜷川 東京五輪が終わっても、野球やサッカーの試合などスポーツイベントはまだまだあるので、2021年秋以降はこれらをコンテンツの軸の1つとする。東京オリンピックの時期からTVerの利用を開始したユーザーは視聴アプリのステータスで把握できるので、該当ユーザーに告知を行うことを今後検討していく。

(次号に続く)