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 前号に引き続き、TVerの龍宝正峰社長と蜷川新治郎取締役CIOのインタビューを掲載する。同社が運営する民放公式テレビポータル「TVer」の利用促進策や、「TVer」におけるID導入の構想、広告収入の増加策について聞いた。

(聞き手は本誌編集長、長谷川 博)

前号記事 システム・運用の両面で同時配信対応の準備進める、UIとUXの刷新検討

「TVer」の再生回数の増加に向けた対策は。

蜷川 自社運営のエンタメ情報サイト「テレビドガッチ」にTVerのコンテンツの関連記事を掲載し、視聴を促すという取り組みを行っている。多少のネタバレも含む形でこのコンテンツにはこういう見どころがあるというのが分かる記事を発信している。

 今後は他社が運営するニュースサイトとの連携も考えていきたい。有名なタレントがテレビ番組でコメントをすると、それに関する記事がニュースサイトに掲載されることがある。例えばニュースサイトと連携して、そのサイトからTVerに遷移して該当コンテンツを視聴できるようにするといったことが実現できればいい。

 また「TVer」のアプリやWebサイトに搭載しているSNS投稿機能の利用を促進して、その投稿が「TVer」のコンテンツへのアクセスにつながる動線として機能するようにしたい。TVerのユーザーがSNSを使っている時に、他のTVerユーザーがシェアした番組の情報を見て、TVerに遷移するといったことを実現したい。

龍宝 放送局にはリアルタイムの視聴率がすべてという価値観が根強くあり、これまでは放送後に視聴してもらうための取り組みを行うという発想がほとんどなかった。このためTVerからシェア機能をアピールすることは控えていたし、今はユーザーにもあまり使われていない。ただ最近になって、放送後に視聴してもらうことの意義に理解を示す人が出てくるなど情勢が変わりつつある。今後、放送業界における許容範囲が広がっていくかどうかを見ながら、TVerのユーザーがSNSなどの他のサービスとTVerの間を回遊しやすい環境を整えていきたい。

代表取締役社長 龍宝 正峰氏
代表取締役社長 龍宝 正峰氏
1987年東京放送(現・TBSホールディングス)入社。TBSテレビ 取締役メディア戦略室長、同取締役営業局長などを経て2020年6月プレゼントキャスト(現TVer)代表取締役社長に就任。
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蜷川 シェア機能によって番組情報を発信されやすくすれば、TVerのコンテンツに接する人が増え、リアルタイム放送の視聴につながるという考えもできる。放送の視聴者も増えると信じて、コンテンツの認知度を上げていったほうがよいのではないか。TVerでコンテンツを視聴するようになると放送を見なくなるという懸念も分かるが、既にインターネット上は様々なコンテンツを視聴できる状態にあり、ここに出さないと視聴してもらえる機会を失うことになる。テレビ局のコンテンツの存在をWeb上で周知し、機会損失を防ぎたい。

「TVer Biz Conference 2021」では「IDの導入を検討している」という考えも示した。

龍宝 「TVer」のユーザーから、「帰宅中にスマホで途中まで見た番組の続きを自宅のテレビで見ようとすると、早送りして自分がまだ見てない場面まで進めなければいけないので、何とかしてほしい」「お気に入り番組の情報が共有されないので端末ごとに登録しなければならず手間が掛かる」という意見が出ている。IDを発行すれば複数の端末を使っていても同一のユーザーと把握できるため、これらの問題を解決できる。「TVer」をより使いやすいサービスにするためには、IDによる管理が必要と考えている。

 「TVer」での広告展開という視点で考えると、例えば広告の表示回数をコントロールできるようになる。過剰な表示によってかえってイメージが悪くなる事態を起こすことなく広告を実施できるという点は、広告主に対するアピールポイントの1つになるのではないか。

 「TVer」をユーザーからも広告主からも選ばれるサービスにするためには、ユーザーにとって使い勝手が良く、広告主にとって広告が出しやすいものにする必要がある。これを実現するために優先度の高いものから開発を進めていく方針だ。当社が予定している案件の中でID導入の優先度は高い。

IDを発行するとなると、例えばメールアドレスなどの識別情報を入力してもらう必要があるが、それを嫌って「TVer」を使わなくなるユーザーも出てくるのではないか。

蜷川 ログインしないとコンテンツを視聴できない、というふうにするつもりはない。ログインすることで、便利な機能を使えるとか、特典が得られるとか、ユーザーにとってプラスになるような仕組みにしたい。

取締役CIO 蜷川 新治郎氏
取締役CIO 蜷川 新治郎氏
1994年日本経済新聞社入社。2008年日本経済新聞社を退社し、テレビ東京入社。2020年7月からTVer取締役CIO。テレビ東京コミュニケーションズ取締役を兼務。
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龍宝 何らかのインセンティブが必要になると思う。現在、どのような仕組みにすべきか、考えているところだ。

仮にIDを導入すれば、TVerはより多くのファーストパーティーデータを取得できる。

龍宝 確かにその余地はある。有効活用できる仕組みとしてどのようなものが考えられるか、知見のある人の知恵もお借りして検討を進めていきたい。

「TVer」の広告収入のさらなる増加策は。

龍宝 この1年で「TVer」のユーザー数や再生数は増加したが、それと同じペースで広告収入が上がっているわけではない。ユーザー数の増加がすぐに広告収入に反映されるわけではないので、多少の時間差はあると思うが、当社としてはそれをなるべく短くしたい。そこで2021年6月に「TVer Biz Conference 2021」を開催し、「TVer」の広告媒体としての現状や今後の広告商品の展開をアピールした。ブランドセーフティーの高さなど、「TVer」の広告媒体としての価値を訴求することは喫緊の課題と認識している。

2020年に蜷川さんは「TVer」について、「収益の軸は当面は広告だが、将来的には課金などを含めて複合的になる可能性がある」と発言している。

蜷川 サブスクリプション型サービスに移行するということではなく、機能課金の可能性があるという趣旨だ。例えばユーザーの利便性が上がる機能や、離れた場所にいる家族や友人などと同じタイミングで番組を一緒に視聴できる機能を使えるようにしたり、より高画質で視聴できる環境を有料で提供したりするということが考えられる。ビジネススキームは複数あってもいいと思うので、幅広く可能性を探っていきたい。