DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む自治体は、どのようなビジョンを持ち、人材育成などをどう進めているのか――。渋谷区の澤田伸副区長CIO(最高情報責任者)は2022年12月、日本経済新聞社と日経BPが共催した「デジタル立国ジャパン2022Winter」のパネル討論に登壇し、DXとの向き合い方などを紹介した。
澤田副区長はまず自治体のCIOが担う役割について次のように述べた。「CIOは情報、システムを統括したりデジタル化を担ったりするだけでなく、イノベーションを前進させる役割を担っている。具体的には、自治体のマーケティングを参謀役として技術的な面からサポートし、それを核に構造改革をする。まさに、DXのX(トランスフォーメーション)を進めるためのポジションだ」(澤田副区長)。
市区町村など基礎自治体のDXを進めるうえで最も重要なポイントとしたのが、ユーザー体験(UX)だ。澤田副区長は「住民はお客様。基礎自治体はお客様にサービスを提供するサービス業だ。サービスをより使ってもらうためには、UXや顧客接点のユーザーインターフェース(UI)が重要になる」と強調。「現状は『自治体のサービスのUXは良くない』と思われているかもしれないが、民間に負けないレベルまで高める必要がある」と説いた。
データという「根拠」に基づき政策立案
渋谷区は現在、基幹業務システムと情報系基盤、デジタルサービス基盤、バックオフィスのクラウド移行に臨んでいる。移行はかなりの部分が終わっており、「あと1~2年で完全に移行できる」(澤田副区長)状態だ。
システムをクラウドに移行したことにより、複数のシステムのデータを連携しやすくなったという。さらに渋谷区はデータ分析用に複数のダッシュボードを導入している。これにより「EBPM(根拠に基づく政策立案)が可能になる。DXはあくまで手段だ。得たデータを使ってEBPMを行い、構造改革につなげることが大切だ」(澤田副区長)。
EBPMの成果が上がっている分野の1つが教育だ。渋谷区は2017年度から小中学校の生徒と教職員を対象に1人1台、デジタル端末を配布している。澤田副区長は「許諾を得たうえで、子供たちの生活・健康面の記録(ライフログ)や、端末での検索履歴データを分析している。これにより、いじめの予兆や体調不良などを早期に発見できるケースが出てきた」と明かす。
渋谷区はもともと、「勉強を支援するためにスタディログを分析することを重視していた」(澤田副区長)。しかし実際に分析を進めるうち、「先生方が、スタディログよりもライフログの分析を喜んでくれることが分かった」(同)。現在はライフログの分析に力点を置く。
パネル討論に参加した渋谷区のDXを支援するデロイトトーマツコンサルティングの澤田滋パブリックセクター執行役員パートナーは「現場の先生は学習指導と生活指導の両方を担い、大変な負荷がかかっていると聞く。DXによって学習指導の負荷を軽減できる可能性が高いので、その分の時間を生活指導に当てることが可能になるはずだ」と語った。
区民のリスキリングに注力
澤田副区長はデジタル人材についても言及した。「よくデジタル人材が足りないと言われる」としたうえで、「私が思うに、デジタル人材として必要なのはデジタルに詳しい人ではない。デジタルを積極的に使い、組織や地域の課題を解決していこうというモチベーションがある人材だ」と続けた。