デジタル庁の発足から1年強、行政分野のデジタル活用や民間企業との連携はどの程度進んだのか――。行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)について話し合う「デジタル立国ジャパン2022Winter」で2022年12月、キーパーソンが議論した。
参加したのは東京都の宮坂学副知事、奈良市の中村眞CIO(最高情報統括責任者)、一般社団法人リンクデータの下山紗代子代表理事、デロイトトーマツコンサルティングの後藤啓一執行役員マネージングディレクター、司会を務めた慶応義塾大学の村井純教授だ。デジタル立国ジャパン2022Winterは日本経済新聞社と日経BPが共催した。
「人口減時代はDXが必須」
奈良市の中村CIOは、日本における出生数が80万人規模と戦後ベビーブーム当時の3分の1を切るところまで減った点について指摘し、奈良市の職員数についても「1998年には約3700人だったが、2020年には約2500人にまで減った」と明かした。今後も人口と職員数が減っていくことは確実な中で、「限られたリソースで住民にきめ細かな行政サービスを提供すると同時に、持続可能な形でサービスを継続するためにはDXが必須だ」(中村CIO)。
DXを実現するためのツールについて中村CIOは、「電話応対がボイスチャットでできるようになったり、会議の自動文字起こしが可能になったりするなど、便利なツールは数多くある」と語った。ただし「現在は各自治体がそれらのツールを個別に使ってDXを一歩ずつ進めている状況だ。住民一人ひとりにきめ細かなサービスを効率良く提供するためには、目指すべきデジタル市役所の姿を描き、その要素となる機能を充実させつつ、それらを組み合わせて構築する必要がある」(中村CIO)。
そのために重要になるのがDX推進体制だ。奈良市は部長級を中心にIT戦略会議を開き、市長や副市長もそこに参加する形で全体のIT戦略を策定している。これにより「こう進めてほしいという理想の形をトップダウン的に各部署に示し、DXの質を引き上げる」(中村CIO)。
一方、各部署で「DX推進リーダー」を任命しており、現在150人いるDX推進リーダーが足元の課題をDXによって、ボトムアップ型で解決していく。DXで必要となる技術面の要素については、中村CIOと情報政策課、デジタル推進室が支援する。
ボトムアップ、トップダウンに加えて重要なこととして、中村CIOは「過去の重荷を取り除くことが欠かせない」と強調した。これまでの条例や習慣にとらわれ、現状を変えることに不安を覚えている人が少なくない状況を踏まえ、「リスキリングや規制改革、安全性の周知などによって、DXが進められる状況を整えるべきだ」(中村CIO)とした。
都と区市町村でツールや人材を共同化
東京都の宮坂副知事は「GovTech東京」について紹介した。GovTech東京は都庁や区市町村のDX支援とデータ利活用推進、デジタル人材育成・確保などを支援する団体で、「2023年の設立を目指している」(宮坂副知事)。
GovTech東京のキーワードは共同化だという。これまで都庁と都内62の区市町村はそれぞれDXに取り組んできたが、「区市町村のCIOと個別に面談すると、DXに苦労しているところが多い」(宮坂副知事)という。そのため行政組織の「外」にGovTech東京という器を作り、「DXを共同で進めようと考えた」(宮坂副知事)。
具体的に進める共同化の取り組みの1つが、調達の共同化だ。宮坂副知事は「都と区市町村は、パソコンやソフトウエアのライセンスなどを大量に購入している。これを共同化して同じものを使えば、価格交渉がしやすくなり、コストを抑えられる」と説き、「同じ道具を使えば人材教育も共同化できる」と続けた。
デジタル人材の共同化にも取り組む。「都でもデジタル人材の採用には苦労しているが、区市町村は応募すらないところもあると聞く。都で採用した人材を区市町村のニーズに応じて派遣する形にしていく」(宮坂副知事)。
オープンデータについても共同で取り組む。宮坂副知事は「それぞれがバラバラのデータを公開するよりも、1種類のデータを皆が公開するほうが価値を高められる。足並みをそろえて取り組みたい」と話した。