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 誰も置き去りにしない社会全体でのデジタル化を目指すなら、政府や自治体など公共組織と市民との信頼が欠かせない――。台湾のデジタル大臣としてソーシャルイノベーションを率いるオードリー・タン氏はこう断言する。2021年5月28日に日本経済新聞社と日経BPが共催した「デジタル立国ジャパン・フォーラム」での講演を基に、タン氏が考えるデジタル改革の要諦をまとめた。

「デジタル立国ジャパン・フォーラム」で講演するオードリー・タン氏
「デジタル立国ジャパン・フォーラム」で講演するオードリー・タン氏
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 タン氏はデジタル化について次のように定義した。「デジタル化とは先進技術導入や大規模なIT化だけでなく、人々が協力してデジタル格差をなくし、不正確で誤った情報の氾濫をなくすことでもあります」。

 この前提に基づき、デジタル化の進め方を3段階に分けて示した。

 第1段階は「自動化」だ。これまで手作業で行ってきたことや単純な反復作業などを自動化することで、省力化や時間節約などのメリットを得られる。「単純作業はどんな分野の仕事にも存在する」(タン氏)。

 自動化には「複雑な分散台帳技術やディープラーニング技術は必要ない」(同)という。デジタル化で遅れている組織がまず取り組むべきところだ。

 タン氏は自動化によって業績を伸ばした事例としてが水道会社の取り組みを紹介した。この会社は水道管の水漏れ検知の作業を自動化した。水圧や水流などの情報を集約しているシステムのデータから水漏れ箇所を予想し、チャットボットで修理担当者に知らせるようにしたことで、水漏れしそうな箇所を数日でチェックできるようになったという。以前は人が水道管の音を聞き分けていたため2カ月ほどかかっていた。

 システム試用期間の3カ月における的中率は70%に達したという。担当者の作業時間が減り「節約した分を後輩社員の教育や、災害に強い水道網・水道管の設計に充てられるようになった」(タン氏)。

リスク回避・時間の節約・相互信頼を得られる

 デジタル化の第2段階は「人間の判断を必要としない事柄をAI(人工知能)に任せること」(タン氏)だ。例として挙げたのが、飲酒運転の際の量刑をAIによって判定させるアイデアだ。飲酒運転の原因となる要素をAIに学習させれば、状況から量刑を自動で導き出せる。「飲酒運転というのは量刑を判断しやすい犯罪です。違法行為と刑罰の関係が明確に定義されているため、刑を言い渡す裁判官の判断はほとんど変わりません」(同)。

 第3段階についてタン氏は「自分の意思決定について、多くの人々の意見を反映できるようにすることです」と語った。どのような意思決定をすべきか悩む際に、オンライン上で意見をシェアし、賛否の意思を表明してもらう。次に、その結果を基にAIが大まかな合意点を導き出す。このような手順を踏むと「意見の対立があると多くの人が感じているテーマでも、意外に同意点が多いことに気づける」(タン氏)。

 デジタル化の各段階についてタン氏は「第1段階ではリスク回避、第2段階では時間の節約、最終段階では相互信頼の促進という効果が得られます」と述べた。これらデジタル革命の3段階を進むことによって、「デジタル化が人々の役に立つようになります」と続けた。

社会をデジタル化に合わせるのではなく、社会のためにデジタル化を図る

 タン氏は台湾が誰も置き去りにしない社会全体でのデジタル化を目指していると紹介した上で、それには当局から市民への「徹底的な信頼が欠かせません」と力を込めた。