全2544文字
PR

 国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できる強靱(きょうじん)なデジタル社会の実現を目指す――。内閣情報通信政策監(政府CIO)を務める三輪昭尚氏は2021年5月28日に日本経済新聞社と日経BPが共催した「デジタル立国ジャパン・フォーラム」に登壇し、このように語った。政府におけるデジタル改革の課題と解決への方策について、講演を基に三輪氏の「本音」に迫る。

内閣情報通信政策監(政府CIO)を務める三輪昭尚氏
内閣情報通信政策監(政府CIO)を務める三輪昭尚氏
[画像のクリックで拡大表示]

 講演の冒頭で、三輪氏は政府のデジタル改革について「何をしようとしているかをもっと国民に説明すべきだと常々思っているので、今日の話がその点で役に立てば幸いだ」と話した。三輪氏は大林組の出身で、同社のCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)などを歴任した。2018年7月から政府CIOを務めている。

 従来は2000年に制定した現在のIT基本法に基づき、内閣総理大臣が本部長を務める「IT総合戦略本部」が政府のIT戦略策定を担ってきた。三輪氏は「当初の戦略の最重要課題はブロードバンドインフラの整備が中心で、その目的は早期に達成した」と指摘した。結果として、日本のブロードバンドの普及率やインフラ整備は現時点で世界最先端の水準にあるという。

 その後、戦略の中心課題は長らくIT利活用だった。近年は流れが変わり、2017年から「データの利活用」が、2018年から「デジタル・ガバメントの実現」がテーマとなった。これにより「社会全体のデジタル化を目指すことになった」(三輪氏)。

縦割りの打破が期待されるデジタル庁

 2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大したことを受け、同年7月にIT戦略の全体像を表す「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定された。これにより「コロナ後のニュー・ノーマルに対応したデジタル強靱(きょうじん)化社会」が大きなテーマになった。「対面・高密度から『開かれた疎』へ」、「一極集中から分散へ」、「迅速に危機対応できるしなやかな社会へ」といった方針が示されている。

 具体的な施策としては、5G(第5世代移動通信システム)の基地局に信号機を利用する「先駆的社会インフラ網」や、「スマート農林水産業」、「健康関連データ活用」、港のデジタル化を指す「サイバーポート」などが挙げられている。

 三輪氏はコロナ禍で浮き彫りとなったデジタル化への課題として「押印手続きなどがテレワークの阻害要因になり、出社を余儀なくされた」「オンライン手続きの不具合などにより、給付金や助成金などの申請、給付がスムーズにできなかった」ことなどを挙げた。これらの原因については「国・自治体の情報システムがバラバラで、横断的にデータを活用できなかった。各府省が民間領域でもデジタル化の促進を図っているが、府省の所管をまたがったデータ連携が念頭に置かれていない」(三輪氏)。

 こうした問題の解決を期待されているのがデジタル庁だ。三輪氏は「縦割りを打破するには、多様な人材が集まった、従来の役所とは一線を画した強い組織が必要であり、それが期待されるのがデジタル庁だ」と語った。デジタル庁は2021年9月1日に発足することなどが決まっている。

前と同じではいけない

 ここからが本題である。三輪氏は「民間企業から政府に移って私が感じたことをお伝えする」と語り、「政府に望むこと」と「企業に望むこと」に分けて述べた。

 まず政府に望むこととして、「『何のために』をしっかり考えて仕事をしてほしい」(三輪氏)とした。「以前、担当者に『何のためにこれをするのですか』と聞いたところ、『法律で決まっているからです』と返ってきた。これでは駄目だ」(同)。

 三輪氏は「確かに、利益を目的にする企業と違い、政府の目的の設定は分かりにくい。最終的には国民の幸せのため、経済発展のためになるはずなので、そこを意識してほしい」と続けた。