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 地方都市の未来は、デジタル技術とデータ活用にかかっている――。日本経済新聞社と日経BPが2021年5月28日に共催した「デジタル立国ジャパン・フォーラム」において、地方創生を担う4人のキーパーソンがパネル討論した。

 4人とは三重県の鈴木英敬知事、日本通信の福田尚久社長、セールスフォース・ドットコムの古森茂幹副社長、有限責任監査法人トーマツの香野剛パートナー/RAパブリックセクター ユニット長だ。

 三重県は鈴木知事がデジタル活用の旗を振り、県を挙げてデジタル活用に挑んでいる。具体的には「3つのSで進めるスマート改革」という取り組みを2019年から進行中だ。

三重県知事の鈴木英敬氏
三重県知事の鈴木英敬氏
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 1つめは「Smart Government(行政改革)」だ。利用者目線で行政サービスを見直し、柔軟な情報基盤を構築することで、事務の生産性向上を目指す。2つめは「Smart Solutions(テクノロジーを活用した社会課題解決の加速)」。ビッグデータやAI(人工知能)技術を活用して社会全体および産業界のDX(デジタル変革)を後押しする。

 3つめは「Smart Workstyle(新しい働き方の実現)」だ。ニューノーマル(新常態)における新しい働き方を実現し、ICTを活用して障がい者の社会参画をサポートする。

 3Sの活動をけん引するのが2021年4月に設けた新組織「デジタル社会推進局」だ。鈴木知事は「より組織横断で3Sを進めるために作った組織だ」と説明した。民間人材の活用も推進。局長と三重県のCDO(最高デジタル責任者)を兼任する人材については全国から公募し、総務省の地域情報化アドバイザーなどを務めてきた田中淳一氏を据えた。常勤のCDOの公募は全国初という。

 三重県が掲げるDX全体のビジョンは「あったかいDX」だ。鈴木知事は「あったかいDXとは、DXの推進により家庭や職場、地域などそれぞれの場所で、新しく何かにチャレンジできる時間を創出し、暮らしやすい寛容な社会づくりに寄与するものだ」と説明した。

 その取り組みの第一段として2021年4月、コロナワクチンに関するAIコールセンターを開設し、実証実験を開始した。「行政の相談窓口が対応できない夜間であっても、AI音声技術によって対応できるようにした」(鈴木知事)。

「人を中心とした先端的サービス」を目指す

 日本通信の福田社長は群馬県前橋市が進める「スーパーシティ構想」のアーキテクトを務めており、前橋市のチャレンジを披露した。スーパーシティ構想とは、2030年ごろをめどに移動、物流、行政、医療などの様々な分野で住民向けサービスをDX化して提供する取り組みを指す。

日本通信の福田尚久社長
日本通信の福田尚久社長
(写真:陶山勉)
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 前橋市は国が公募する「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に申請、2021年4月には提案書を提出している。前橋市で学び起業した経験を持つ福田社長は前橋工科大学の理事長にも就任しており、地元でのデジタル人材の育成にも携わるなど、故郷のデジタル化促進に向けて奮闘している。

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 スーパーシティ構想を考えるにあたって特に重視したのが「誰一人取り残さない」「パーソナライズ」「技術が人に寄り添う」の3点だという。

 福田社長は「スマートフォンを使えない人に一生懸命使い方を教えるのは間違っていると思う」と指摘した。技術に人が合わせるのではなく、人に技術が寄り添う形であるべきだと強調。「近所のお店で毎回少額の買い物をするお年寄りであれば、店側が顔を覚えて、つけ払いを認めることでキャッシュレスは実現できる。このようなパーソナライズしたやり方ができるはずだ」(福田社長)。

 人を中心としたアプローチを実現する上で、「導入が欠かせないと考えるようになった」(福田社長)のが新たな認証手段「まえばしID」だ。

 マイナンバーカードやスマホ、顔認証といった既存の認証方法について、福田社長は「信頼性と利便性の両方を備える認証方法がない」とした。そこでまえばしIDを新たに作り、マイナンバーカードや顔認証、スマホなどと組み合わせることで「様々な問題を解消し、人を中心とした先端的サービスが実現できる」(福田社長)。

 まえばしIDを使ったサービスを企業に公募したところ、159の事業者から提案があったという。これは「まえばしIDの安全性、利便性を理解してもらった結果だと考えている」(同)今後は事業者と組み、実証実験などを重ねていく。

 「前橋に注目してほしい。進行形でどんどん変わっているし、どんどん発展していくはずだ」。福田社長はこのように述べた。