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 三重県がデジタルトランスフォーメーション(DX)による地方創生に力を入れている。最高デジタル責任者(CDO)に外部人材を登用、DX推進組織も新設し、民間企業と新技術を生かした社会インフラの実証実験にも力を入れる。DXの全体ビジョンは「あったかいDX」だ。鈴木英敬知事がその真意とDXへの思いを明かした。

 「デジタル化を進めていくに当たって大事なのは技術、人材、ルールだ。私は行政の立場なので、ルールに注目している」。三重県の鈴木知事は日本経済新聞社と日経BPが2021年5月28日に共催した「デジタル立国ジャパン・フォーラム」のパネル討論に登壇し、このように述べた。

「デジタル立国ジャパン・フォーラム」に登壇した三重県の鈴木英敬知事
「デジタル立国ジャパン・フォーラム」に登壇した三重県の鈴木英敬知事
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 ルールとは規制緩和だ。鈴木知事はクレジットカード決済の例を挙げた。「少し前まで法律により、地方自治体での支払いにクレジットカードを使うことができなかった。こういったルールがデジタル化を阻害してはいけない」と説明。法制度を時代の要請に合わせて柔軟に変更していくことの大切さを指摘した。

若手職員のアイデアが出発点に

 三重県のDXは「複数の若手職員が『県民の皆さんのために仕事をしたいが、従来のやり方ではそれができない』と悩み、どうやったら時間を捻出できるか自ら考え、リポートにまとめてくれたものを基にしている」(鈴木知事)という。

 具体的には2019年から「3つのSで進めるスマート改革」を進めている。

 第1は「Smart Government(行政改革)」だ。利用者の目線で行政サービスを見直し、柔軟な情報基盤を構築することで、事務の生産性向上を目指すプロジェクトである。

 第2は「Smart Solutions(テクノロジーを活用した社会課題解決の加速)」だ。ビッグデータやAI(人工知能)技術を活用し、規制緩和も含め社会全体、産業界のDXを後押しする。

 第3は「Smart Workstyle(新しい働き方の実現)」。ニューノーマル(新常態)の時代における新しい働き方の実現と、障がい者の社会参画をサポートする。

 それぞれの観点から複数のプロジェクトを進めており、例えばSmart Solutionsとして、道路のメンテナンスにAIを活用して老朽化の度合いを把握する取り組みがある。鈴木知事は「AIによってメンテナンス予算を客観的に算出できるようになった」と説明した。

 AIで教育格差をなくすプロジェクトも進行中だ。慶応義塾大学および他の県などと連携し、AIを活用したドリルで学習する取り組みを複数の高校で行ったところ、AIを使わない場合よりも大きく学力が上がったという。

 鈴木知事は「就学支援資金を利用している低所得世帯の生徒は、AIドリルで他の生徒よりも顕著に高い効果が上がった」と説明し、「教育×ICTは子供の貧困や格差を連鎖させないようにする上で極めて重要であることが明らかになった」と続けた。

空飛ぶクルマや完全自動物流の「実証フィールド」を提供

 三重県はデジタル活用を加速する目的で2021年4月には新組織「デジタル社会推進局」を立ち上げた。鈴木知事は「より組織横断で3Sを進めるためにつくった組織だ」と力を込めた。局長と三重県のCDOを兼任する人材については全国から公募し、総務省の地域情報化アドバイザーなどを務めてきた田中淳一氏を据えた。常勤のCDOの公募は全国初という。

 DXに当たっては企業と組んで実証実験の「場」を提供するチャレンジにも取り組んでいる。「(デジタル変革の)フィールドを(自治体として)提供して、一緒に(DXを)やらせてもらうスタンスだ」と鈴木知事は説明した。

 「三重県は地理的にも日本の真ん中にあるし、面積や人口も都道府県で大体真ん中だ。そのため三重県で何か問題を解決できれば、それを全国に応用しやすいはずだ」(鈴木知事)という考えがその背景にある。

 例えば交通・観光・物流・生活などに使う「空飛ぶクルマ」の実現を目指すプロジェクトだ。ANAホールディングスや日本航空(JAL)、東京海上日動火災保険、ベンチャー企業のエアモビリティなどと協定を結んで取り組んでいるという。楽天グループとはドローンを活用した非接触型の完全自動物流システムの実証実験をした。