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 供給者目線のデジタル化から180度方向転換し、利用者目線でのデジタル社会づくりを目指す――。政府におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)のチャレンジについて、デジタル庁の創設にも携わる内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の津脇慈子企画官が変革に向けた覚悟と、率直な思いを披露した。津脇企画官の考えを基に、デジタル技術で日本全体の安心・安全と効率アップを図る「デジタル立国」の勘所を探る。

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の津脇慈子企画官
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の津脇慈子企画官
(写真:陶山 勉)
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 津脇企画官は実現すべきデジタル社会に向けて必要な「3つの変更」を示した。第1にアプローチの変更、第2にプロセスの変更、第3に担い手と意思決定の在り方の変更、である。

 1つ目のアプローチについて、「ポイントは今まで供給者目線だったものを、徹底した国民目線、利用者目線にすることと、官主導から民間主導に変えることだ」と津脇企画官は説明した。そして「信頼を回復するという観点から、透明性の高い政府にすることも大切だ」と続けた。

 これらを成し遂げるために「強力な司令塔としてデジタル庁を立ち上げる」(津脇企画官)。デジタル庁はトップダウンでデジタルの展開を進めるための組織だが、「同時にボトムアップ(のアプローチ)も必要だと考えている」(同)という。

 トップダウンとボトムアップの両方を進める際に「カルチャーミックスによる、ある程度の衝突は避けられないだろう」と津脇企画官はみる。ある程度の衝突を見越した上で、そこを「乗り越えていくことが大事だ」と述べた。

失敗を恐れず、スピード重視

 2つめの変更はプロセスだ。津脇企画官は行政サービスについて「サービスをリリースしたら終わりではなく、リリースしてからが勝負だ」と話した。そのためにも、デジタル化のプロセスについて「アジャイルで小さくつくるように変えていく必要がある。小さくつくってから発展させること、失敗をある程度許容していくこと、時にはやめることも大事だと考えている」(津脇企画官)とした。

 民間企業では当たり前の考え方ともいえるが、完璧主義が多い行政の取り組みとしては異例ともいえる。津脇企画官は「非常に難しい部分だった。国民の声を聞いてサービス内容を変えるということは、対外的にも間違っていると認めることになる」と明かしつつ、「国民の役に立つサービスを迅速に提供していくためには、失敗を恐れずにスピードを重視していく必要がある」と続けた。

 プロセス改革の具体的な改善策の一つとして、デジタル庁は「デジタル改革アイデアボックス」というオンラインで意見を募る仕組みを構築した。津脇企画官は「しっかりご意見を聞いて、それを反映させていく、ということに取り組んでいきたいと考えている。ご意見の聞き方やプラットフォームのつくり方を含め、アジャイルで進めている」と語った。

 取り組みとしては小さな一歩かもしれないが、それでも利用者の声を聞いてサービス改善に反映させていくという基本的なプロセスを盛り込んだことは意義のあることだといえるだろう。

官民連携して臨む

 3つ目の変更は、担い手と意思決定の在り方だ。役人だけで担っていくという考え方を脱却し、民間企業を巻き込んだ官民連携のチームで臨むことを目指す。

 例えばデジタル庁の発足に先駆けてUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザー体験)チームやガバメントクラウドチームなどを設けている。チームのメンバーは「半数以上が民間の人材で、フルタイムでない非常勤の方も多い」(津脇企画官)。いわば混成チームともいえる。そのため「開発環境をどう整えるか、リモートで情報共有する仕組みをどう作るか、それぞれ当たり前に思っていたカルチャーの違いをどう乗り越えるか」(同)といった課題に直面したという。

 このような経験を踏まえ、「成果を見える化してお互い発信していく」(津脇企画官)など、組織の枠組みを越えプロジェクト単位で柔軟に動ける組織づくりを狙う。