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 デジタル庁はDX(デジタルトランスフォーメーション)促進の起爆剤となれるか――。20年ほど前の「e-Japan戦略」策定以降、日本の公共分野の情報化は細々と続いてきたものの、芳しい成果は出ていない。こうした状況を変える役割を期待されているのが、2021年9月に発足するデジタル庁だ。

 デジタル庁はその目的を「組織の縦割りを排し、国全体のデジタル化を主導する」としている。だが、新しい組織をつくればこれらの課題が解決できるかというと、そんな甘いものではない。デジタル庁が期待する役割を担い、日本の公共分野のデジタル化を推し進め、便利で安心・安全な国づくりを果たすには、どんな点が鍵となるのか。

 ヒントになり得る成功例として、ここでは佐賀市の取り組みを挙げたい。佐賀市は旧来型の情報システムの刷新を果たしてITコストを数十億円削減。業務効率化などの効果を含めると300億円以上の節約につなげたとされる。知る人ぞ知る、システム改革の先進自治体である。

 一連の改革を支えたのが、行政のシステム化を支援するIT企業、イーコーポレーションドットジェーピーの廉宗淳(ヨム・ジョンスン)社長だ。廉社長は佐賀市長の木下敏之氏から直接依頼され、システム改革を支援した。佐賀市のシステム刷新は15年ほど前の取り組みだが、直面した課題やその解決法などについては今も十分参考になる。

イーコーポレーションドットジェーピー代表取締役社長の廉宗淳(ヨム・ジョンスン)氏
イーコーポレーションドットジェーピー代表取締役社長の廉宗淳(ヨム・ジョンスン)氏
(写真:陶山 勉)
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市長がシステム刷新を決断

 廉社長は木下市長と知り合った経緯について次のように振り返る。「システム化が遅れている自治体が多く、それが行政窓口の効率悪化や混雑につながっているとある講演で話した際に、たまたま木下市長が聴講していて、声をかけられた。相談に乗るうちに、佐賀市の改革に関わるようになった」。

 佐賀市は当時、使用していたメインフレームの更新時期にあった。木下市長はコスト削減のためにオープン化を考えていたが、ベンダーからは「オープン化すると3年間、20億円かかる。1年以内に更新が必要なので新しいメインフレームに置き換える方がよい」と反論され、悩んでいたという。

 別の問題もあった。「動作させている業務プログラムの記述内容を委託先のベンダーしか見ることができなかった」(廉社長)という点だ。そのため、毎年の法改正対応で発生するプログラム変更費用や、システム更新費用についての見積もりが適正かどうかの判断ができなかった。

 オープンシステムを新たにつくるとしたら開発期間や費用はどれくらいになるのだろうか。失敗のリスクもあるだろうが、既存ベンダーの手を借りずにシステム刷新を成し遂げることは本当に可能だろうか。木下市長から問われ、廉社長は調査チームを組んで検証したうえで、次のように答えた。

 「1年間でシステム刷新は可能だ。費用も格段に安くなる」

 木下市長は廉社長の提案に魅力を感じつつも、裏を取る行動に出た。何人かの職員を連れ、システム改革に成功した先行事例の視察に臨んだのだ。残念ながら15年ほど前の当時、日本に手本となる自治体はほとんどなかった。目を付けたのは韓国・ソウル中心部の江南区役所だった。

 韓国は1990年代に自治体システムのオンライン化を完遂しており、居住する自治体以外でも住民票を取得できるサービスを実現していた。自宅で証明書をダウンロードすることも可能だった。

 木下市長は窓口で職員の操作画面を自らチェックし、職員の作業の流れなども念入りに確認した。その上で、廉社長のシステム刷新の提案を受け入れる決断を下した。

 新システムの導入案はリスクが大きいなどと市議会から反対を受けた。すると木下市長は市の議員を改めて韓国視察に連れて行き、説得した。