政府が進めるデジタル田園都市国家構想(デジ田)において、全国の自治体はどのような目標を掲げ、どんな挑戦をしているのか――。2022年12月2日、日本経済新聞社と日経BPが共催した「デジタル立国ジャパン2022Winter」のパネル討論に改革を率いる3人が登壇し、議論を交わした。
3人とは、内閣官房の飯嶋威夫デジタル田園都市国家構想実現会議事務局参事官/内閣府地方創生推進室参事官、福島県会津若松市の室井照平市長、香川県三豊市の山下昭史市長だ。
飯嶋参事官はデジ田について「デジタルを活用して地域の課題解決を図り、全国のどこでも、誰もが便利で快適に暮らせる社会の実現を目指すものだ」と紹介した。具体的な取り組みとしては、「2024年度末までに、デジタル実装に取り組む地方公共団体を1000にする目標を掲げている」(飯嶋参事官)。その実現のために作ったのが、「デジタル田園都市国家構想交付金」だという。
交付金にはTYPE1~3の3種類がある。TYPE1は、行政手続きの際に申込書などの手書きを不要にした「書かない窓口」や、需要に応じて最適な運行ルートをAI(人工知能)が算出する「オンデマンドバス」といったサービスの導入に取り組む自治体のためのものだ。現在403団体を対象にしている。
このようなデジタルサービスを複数連携して活用するには、データ連携基盤が必要になる。そのデータ連携基盤の導入に取り組んでいる自治体を支援するのがTYPE2だ。現在21団体を対象にしている。TYPE3は、TYPE2の中でも全国に先駆けて事業化を目指す自治体のためのもので、現在6団体が対象だ。
飯嶋参事官は「デジタル実装を考えている自治体は、TYPE1~3に選ばれている自治体を参考にしながら取り組んでいただきたい」と期待を寄せた。
デジタル地域通貨で「三方よし」
会津若松市は2022年6月にTYPE3に採択された。同市の室井市長は交付金事業の概要について「食・農業、決済、観光、ヘルスケア、防災、行政のデータを、データ連携基盤によってつなげ、共助型のスマートシティーを目指す取り組みだ。2022年度内に全サービスを始める」と紹介した。
取り組みの1つが、食・農業分野における「需給マッチングサービス」だ。農産物の生産者が「供給情報」を登録し、旅館、福祉施設、飲食店といった実需者が「需要情報」を登録することで、入札や落札などをする。これにより生産者の所得向上に加え、実需者がタイムリーに新鮮な野菜を安く手に入れられるなどのメリットがあるという。規格外野菜も加工品の原材料として流通しやすくなり、フードロスの削減にもつながる。
決済分野の取り組みとしては「地域課題解決型デジタル地域通貨」がある。大手企業のキャッシュレス決済は、決済手数料が発生したり、店舗側が一時的に代金を立て替える必要があったりして、会津若松市ではあまり導入が進んでいないという。
デジタル地域通貨は、こうした課題の解消を狙う。室井市長は「店舗の手数料負担を軽減でき、即時現金化も可能だ。キャッシュレス決済ができる店舗が増えれば、市民の利便性も高まる」と説いた。
デジタル地域通貨による購買データは、市民の許可を得て(オプトイン)活用し、他のサービスと連携させていく計画だ。具体的には、購買行動データを活用した健康アドバイスサービスなどを検討している。室井市長は「データを上手に活用できるようになれば、新たなサービスやイノベーションが生まれ、市民、地域、企業の全てにメリットがある。三方よしだ」と語った。