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 デジタル化が遅れているとされる公共分野で、いま求められているのはどのような人材か、その人材の育成策とは――。石川県金沢市の村山卓市長、三重県の森隆裕デジタル社会推進局デジタル改革推進課長らは2022年12月1日、日本経済新聞社と日経BPが共催した「デジタル立国ジャパン2022Winter」のパネル討論に登壇し、議論を交わした。

 金沢市の村山市長は、金沢市におけるDX(デジタル変革)の状況について紹介した。「金沢市は2021~2022年度の2年間で可能な部分について集中的にDXを行う方針を採っている。具体的には、ペーパーレスを進めるために内部文書をデジタル化し、それに合わせてフリーアドレスを導入した他、電子決裁を原則とするなどした」(村山市長)。

石川県金沢市の村山卓市長
石川県金沢市の村山卓市長
(写真:村田 和聡 配信映像を撮影)
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 2021年6月から、市長室や局長室などでの会議は原則ペーパーレスにしており、会議室には大型のモニターを設置し、参加者がパソコンを持ち込んでいるという。村山市長は「上層部から率先して取り組むことで、各課内の会議や打ち合わせにも広げていきたいと考えた。現在ではほぼ全ての課でペーパーレス会議を導入できている」と語った。

 電子決裁については、2022年4月の文書管理システム更新を機に、全職員に義務付けた。これにより役所の外にいても決裁が可能になり、テレワークがより進めやすくなったという。「私自身が海外出張に行った際も決裁ができ、効果を実感できた」(村山市長)。現在では電子決裁率が82%に達しており、コピー枚数も2019年度比で3割減ったという。

 次に三重県の取り組みだ。三重県は2021年4月に民間からCDO(最高デジタル責任者)を招き、知事直轄組織としてデジタル社会推進局を新設してDXを本格的にスタートした。同年9月には、行政や県内事業者、県民からのDXについての相談を受け付ける「みえDXセンター」を設置し、17名のアドバイザーと11社のパートナー企業が対応する体制を敷く。

三重県の森隆裕デジタル社会推進局デジタル改革推進課長
三重県の森隆裕デジタル社会推進局デジタル改革推進課長
(写真:村田 和聡 配信映像を撮影)
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 現在は「みえのデジタル社会の形成に向けた戦略推進計画(仮称)」の改訂に取り組んでいる最中だ。その中で基本理念として「みんなの想いを実現する『あったかいDX』」を掲げ、目指す姿として「誰もが住みたい場所に住み続けられる三重県」を標榜している。

 三重県庁は「県民サービス」「仕事の進め方」「職員の働き方」の3つを2026年度までに変えていく方針だ。森課長は「2022年度中にデジタル環境の整備を完了する見込みで、2023年度からビジネスチャットの全庁展開などデジタルコミュニケーションを推進する他、データ活用なども積極的に推進していきたい」と意欲を見せた。

全体の底上げとリーダー育成を同時に

 これらの施策を進めるに当たって、金沢市と三重県は共に、デジタル人材の育成に力を注いでいる。金沢市は事務パソコンを使う全職員2000人を対象に「一般職員向けデジタル研修」を実施。現場発のDX創出を担う「デジタル行政推進リーダー育成研修」も始めた。

 前者の一般職員向けデジタル研修は、動画による講座やeラーニング研修などを用意する。後者のデジタル行政推進リーダー育成研修は、職務経験が5年以上で30代の職員を主な対象に、講座やワークショップ、ノーコード・ローコードツールの技術習得、アプリケーションの試作など、半年間で200時間の研修をするという。毎年20人、5年間で100人を育成する計画だ。

 村山市長は「100人のリーダーが育成できると全課に1人配置できるようになる。そうなれば各課でDXが進んでいくはずだ」と見通す。