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日経コンピュータの書籍『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』より、デジタル政府20年の歴史を解説した第3章の一部を再録しました。本記事は第6回です。

 政府CIOのもとで進んだ改革の中でも最も規模が大きいのが、特許庁システムと年金システムの改革である。このうち特許庁システム「再刷新」の軌跡についてみていこう。

 特許庁は失敗の事後処理と並行し、2012年より遠藤政府CIOの指導の下で、システム刷新の再開に向けて粛々と準備を整えていた。過去の失敗を分析し、新たな計画に反映していった。同じ間違いは二度と繰り返さない覚悟で、システム刷新に再挑戦している。

 数百億円を投じ、10年近くをかけてシステムの刷新を完了する長期プロジェクトだ。従来のシステムは運用・保守に年間250億円を費やしており、システムの刷新で運用費の削減を目指すほか、審査業務の迅速化、利用者の利便性向上を図る。

 システムの要件定義を経て2016年から調達を始め、2020年1月に第1段となる「特実審査業務システム」の一部機能が稼働した。2020年末時点では残りの機能についてユーザーテストを実施しており、2021年7月に全機能をリリースする予定である。

 2012年に再起動したプロジェクトは、4つのポイントで過去の失敗プロジェクトとは大きく異なるものとなった。(1)特許庁の職員が自ら業務を可視化、(2)入札方式を技術重視に、(3)開発の難度を引き下げ、(4)長官をトップとする推進体制。いずれも奇をてらうものではなく、いずれもシステム開発の正攻法に沿ったものである。

特許庁の職員が自ら業務を可視化

 ここが、過去プロジェクトと最も異なるポイントだろう。過去の刷新では、この業務の分析で大きくつまずいた。2012年に頓挫した過去の刷新プロジェクトにおいて、特許庁は前章でも触れたとおり、現行業務の分析作業をほとんどITベンダーに丸投げしていた。当時の特許庁は、ITベンダーの担当範囲を「基本設計と詳細設計」としながら、実際には現行業務の分析まで担わせていた。だが、ITベンダー自身が特許庁の業務に詳しくなかったこと、特許庁の情報システム室とシステムのユーザーとなる業務部門(原課)の連携がうまくいかなかったことで、作業が遅れた。

 ITベンダーは人材派遣会社や協力会社を通じて、大量の人材を集めた。だが、特許について素人の技術者が大挙して参加したことで、プロジェクトの混乱に拍車がかかるばかりだった。この結果、製造工程につなげられるだけの成果物を作成できず、プロジェクトは頓挫した。

 こうした過去プロジェクトの反省を受けて、特許庁は方針を大きく転換した。「業務の可視化」をITベンダーに任せず、自ら実施することにしたのだ。

 図 業務の流れを可視化した概要業務フロー図の一例(画像提供:特許庁)
図 業務の流れを可視化した概要業務フロー図の一例(画像提供:特許庁)
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