日経コンピュータの書籍『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』より、デジタル政府20年の歴史を解説した第3章の一部を再録しました。本記事は第7回です。
過去プロジェクトと異なる2つめの特徴は、システム開発に向けて実施する入札の方式を変え、優れたITベンダーを選定する「調達力」を発揮できる体制を整えたことだ。
まず、入札に向けて特許庁が準備する調達仕様書は、これまでに作成した業務分析やデータモデルといった成果をもとに、過去プロジェクトと比べてシステム要件の精度を大幅に高めた。
システム調達の範囲については、複数のサブシステムごとに設計から開発、テストまでを一括発注する。
ベンダー選定のルールも大きく変えた。落札ベンダーを決める評価点の割合について、過去プロジェクトでは技術点1:価格点1だったのを、技術点3:価格点1に切り替えた。技術点の割合を引き上げることで、「安かろう悪かろう」の落札を防ぐ。過去のシステム調達失敗の反省から内閣官房が財務省と折衝して2013年7月にとりまとめた「情報システムの調達に係る総合評価落札方式の標準ガイドライン」で、この比率が認められた。
だが、これだけでは十分とはいえない。実際、過去に設計・開発業務を落札したITベンダーは、技術点は最低だったものの、安値入札のため価格点で他を引き離しており、仮に技術点3:価格点1の配分でも落札できていた。
このため特許庁は、技術評価を絶対評価でなく相対評価にすることで点数にメリハリをつけるほか、1位のベンダーに評価点を重点配分することで、技術力に優れたベンダーが大きな評価点を得られるようにした。評価に当たっては、実際にプロジェクトマネジャー(PM)を担う社員によるプレゼンを義務づけた。
開発の難度を引き下げ
過去プロジェクトと異なる3番目の特徴は、スケジュールやアーキテクチャーを工夫して、システム開発の難度を引き下げたことである。
今回のシステム刷新は大きく3段階に分けて実施する。まず特許と実用新案の方式・実体審査を担う「特実審査業務システム」を刷新。続いて「公報システム」、「審判システム」、「意商(意匠・商標)システム」を刷新する。
過去のプロジェクトでは、全てのシステムやデータベースを一斉に新システムに切り替える計画だった。このためシステム構築の規模が肥大化し、プロジェクトの管理が極めて難しくなっていた。今回は、機能ごとに複数のサブシステムに分け、順次刷新する形にした。
システムアーキテクチャーについても、一定の実績があるものを採用した。というのは、かつてプロジェクトが失敗した要因の一つに、採用したアーキテクチャーの難度が高かったことがあったためだ。
特許庁は今回の刷新計画では、既に開発ツールや開発の方法論が存在し、特定ベンダーに偏らないアーキテクチャーの採用にこだわった。この結果、2015年3月までにアーキテクチャーが固まった。複雑なシステムをいくつかの部品に分けてシンプルにする「SOA(サービス指向アーキテクチャー)」に基づき、可視化した業務プロセスを実行する「BPM(ビジネスプロセス管理)」や、SOAの発想に基づきシステム間でデータをやりとりする「ESB(エンタープライズ・サービス・バス)」を中核に構成する。