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日経コンピュータの書籍『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』より、デジタル政府20年の歴史を解説した第2章の一部を再録しました。本記事は第3回です。

 特許庁システムの開発失敗は、当時の政府システム調達体制に横たわる構造的な問題をあらわにした。IT人材が質と人数の両面で足りないという点と、業務分析から入札準備、プロジェクト管理、稼働に至るまでの調達プロセスが未成熟という点だ。

 2004年に各省庁が策定を始めた、業務やシステムの無駄をなくすための行動計画「業務・システム最適化計画」では、業務プロセス改革や分割発注といった理想を描いていた。ところが、それらの実行に必要なスキルやリソース、プロセスを用意しなかった。業務・システム最適化計画が掲げた理想と比べて、発注者である政府側のIT人材や調達プロセスが明らかに貧弱だった。大量の成果物を精査できるIT人材、業務とシステムの双方に精通する職員、技術力で劣るITベンダーによる安値受注を防ぐ入札制度、問題プロジェクトに「中止」を宣告する上位組織、そのいずれも存在しなかった。

 失敗は特許庁システムだけではなかった。業務・システム最適化計画の対象となった「年金システム(社会保険オンラインシステム)」、各省庁のシステムを共通化(府省共通)した「人事・給与システム」など、大規模システムや省庁共通システムでプロジェクトの中止や停止、延期が相次いでいた。その原因を突き詰めると、いずれもIT人材と調達プロセスという2つの問題に行き着く。

表 「業務・システム最適化計画」に基づいて刷新したシステムと2012年時点での成果
(稼働前システム運用費が年間90億円超の大規模システム(ネットワーク関係は除く)と府省共通システムの一部について、最適化実施評価報告書や行政事業レビュー、各省庁への取材を基に作成した。担当ベンダーは一部日経コンピュータ推定)
表 「業務・システム最適化計画」に基づいて刷新したシステムと2012年時点での成果
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 システム開発の範囲や工程を分けて委託する分割発注は、調達の透明性や競争性を高める効果がある。一方で発注者は、複数のITベンダーを取りまとめたり、仕様や成果物の粒度を統一したりする必要があり、高度なITスキルが欠かせない。だが今回の最適化計画で、各省庁が職員のITスキルについて検証した形跡はない。それが開発の失敗を招いた。

 例えば年金システムの刷新では、業務アプリケーションの機能を4分割して発注した。だが基本設計の段階で、これらアプリケーション間でデータをやり取りする処理の整合性に問題が発覚。その不具合を修正するため、補完工程を実施する羽目になった。